第十八回:血塗られた高層階(ブラッディ・スカイ)

マンションの一室は、もはや地獄の縮図だった。


「私の翔太くんに……その汚い手で触らないで!」 **桜(さくら)**が裁ち鋏を大きく開き、黒井先生の腕を狙って突き出す。


「穢れた女め、その指先ごと浄化してあげましょう!」 **美雪(みゆき)**の御神刀が空を切り、高級な革張りのソファを一刀両断にする。


「あはは! 先生のその綺麗な顔、真っ赤な水玉模様にしてあげます!」 **白鳥(しらとり)**が跳躍し、カッターの刃で先生の白衣を切り裂く。


四人の女たちが入り乱れ、家具が壊れ、悲鳴と怒号が飛び交う。その中心でベッドに縛り付けられた俺は、ただ震えることしかできなかった。


「ふふ、そんなに必死になって……可愛いわね」 黒井先生は三人の攻撃を間一髪でかわしながら、俺の腕に注射器の針を突き立てた。「でも、もう遅いの。翔太くんの血の中には、私の愛(ドク)が入り込んじゃったわ!」


「――っ!?」 腕に冷たい感覚が走ると同時に、視界が真っ白に染まる。脳内を直接かき回されるような、激しい多幸感と恐怖が交互に押し寄せてきた。


「翔太くん!? 離しなさい、この女!」 桜が絶叫し、先生の肩口を鋏の先でかすめる。鮮血が飛び散り、先生の白いキャミソールが赤く染まっていく。


「あははは! 痛い? 痛いよね、先生! でも先輩はもっと痛い思いをしてるんだよ!」 白鳥が先生の背中に飛びつき、ナイフを振り上げる。


「待ちなさい、白鳥! 翔太の体に障ります!」 美雪が白鳥を止めようとするが、もはや誰にもこの狂乱を止めることはできない。


その時、薬のせいで朦朧とする俺の耳に、四人の声が重なって聞こえてきた。


「「「「ねえ、翔太(くん・先輩)。誰に助けてほしい? 誰に壊されたいの?」」」」


血の匂いと、女たちの香水の匂い。そして薬物の甘い香りが混ざり合い、俺の意識は深い闇へと沈んでいく。


その瞬間、マンションの窓ガラスが凄まじい音を立てて割れた。 外は嵐。吹き込む雨風が、血塗られた部屋を冷たく冷やしていく。


「……もう、どうにでもなれ……」


俺の口から漏れた言葉は、誰にも届かないまま、嵐の音にかき消された。

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