第十一回:保健室の全面戦争(トータル・ウォー)

「……先生、その格好で翔太くんに何をするつもり?」


桜(さくら)の持つ裁ち鋏が、カチリと音を立てる。その瞳には深い殺意が宿り、ベッドに横たわる俺と、キャミソール姿の黒井先生を交互に睨みつけた。


「翔太を返しなさい! 不潔な真似は、神が、そしてこの私が許しません!」 美雪(みゆき)は数珠を握り締め、今にも御神刀を抜き放たんばかりの気迫で一歩踏み出す。


「あはは……。先生、その綺麗な肌、ズタズタにされたいんですか?」 白鳥(しらとり)**の美工刀の刃が、夕日に反射して不気味に光った。


三人の圧倒的な圧力を前にして、黒井先生は焦るどころか、余裕たっぷりに髪をかき上げた。そして、俺の胸元に指を這わせたまま、三人を見下すように冷笑した。


「あら、そんなに怖い顔をして。……あなたたち、わかっているのかしら? この子は心も体もボロボロなのよ。あなたたちみたいな『子供』の独占欲に振り回されてね」


先生はわざとらしく俺の体に密着し、三人に向けて言い放った。


「あなたたち、佐藤くんと『大人の付き合い』、まだしてないんでしょう? 理屈やルールで縛るだけのあなたたちとは違って、私は私の体で、この子を最高に気持ちよくしてあげようとしているの。……この子は今、私を求めているのよ?」


「なっ……!?」 桜の顔が屈辱で赤く染まる。 「ふ、不謹慎です! 恥を知りなさい!」 美雪の声が震える。


「……この、泥棒猫(どろぼうねこ)がぁ!!」 白鳥が絶叫した。「先輩を横取りしようなんて許さない! 先輩を返しなさい!!」


「返してほしければ、力ずくで奪ってみなさいな」 黒井先生は俺の耳元に唇を寄せ、気を失いかけている俺に向かって「ねえ、翔太くん。誰がいい?」と甘く囁いた。


その瞬間、三人の堪忍袋の緒が切れた。


「――排除するわ」 「――お祓い(処刑)が必要です」 「――殺してあげる!」


三人が同時にベッドへ向かって跳躍する。 桜の鋏、美雪の拳、白鳥の刃。 そしてそれを迎え撃つ、謎の薬品を手にした黒井先生。


俺、佐藤翔太の意識が完全に途切れる直前、最後に見た光景は、四人の美女が俺という獲物を奪い合う、血の匂いが漂う修羅場だった。

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