第十回:保健室の密約(シークレット・プラン)

放課後のチャイムが鳴り響く。 俺、佐藤翔太は、三人の「公式な監視」をすり抜けるために一世一代の芝居を打った。 「体調が悪いから、少しだけ保健室で休ませてくれ……」


桜花、美雪、白鳥の三人は不満げだったが、黒井先生が「私が責任を持って管理するわ」と宣言したことで、渋々ながらも保健室の外での待機を飲み込んだ。


静まり返った保健室。カーテンで仕切られた空間で、黒井レイ先生が椅子に深く腰掛け、俺を見つめていた。


「それで、佐藤くん。最近の体調はどうかしら?」


「……正直、最悪です。体が重いし、何より精神的に限界で。少しだけでいいから、一人で休みたいんです」


俺が本音を漏らすと、黒井先生は優しく微笑んだ。 「そうよね。あんな猛獣三人に囲まれていたら、心も休まらないわ。いいわよ、ここは安全。あの子たちも中には入ってこられないわ。ゆっくり休みましょう?」


先生の声は、どこか子守唄のように心地よかった。 だが、安心したのも束の間、急に視界がぐにゃりと歪み始めた。


「……あれ、先生、急に頭が……」


「あら、少し薬が強すぎたかしら? 紅茶に入れた鎮静剤が効いてきたみたいね」


俺の体は糸の切れた人形のように、保健室のベッドに倒れ込んだ。意識はかろうじてあるが、指一本動かすことができない。


「ふふふ……あはははは!」


それまでの優しい保健医の仮面が剥がれ落ち、黒井先生は邪悪な、そして艶やかな笑みを浮かべた。 彼女はゆっくりと立ち上がると、白衣のボタンを一つずつ外していく。


「あの子たちに見せつけてあげたいわ。あなたが私だけのものになる瞬間を」


バサリ、と白衣が床に落ちた。 先生はさらに上着を脱ぎ捨て、薄いキャミソール一枚の姿になった。大人の女性のしなやかな肢体が、倒れ込んだ俺の視界を塞ぐように迫ってくる。


「佐藤くん、弱みを握られているのはあなただけじゃないのよ? 私も、あなたという『劇薬』が欲しくてたまらなくなっちゃったの」


先生の熱い吐息が耳元にかかる。彼女の指先が、動けない俺の胸元に這い寄る。 その時だった。


『ドォォォォォン!!』


保健室の重い扉が、外側から凄まじい衝撃で蹴破られた。


「――そこまでよ、泥棒猫」


カーテンが乱暴に引き開けられる。 そこに立っていたのは、裁ち鋏を構えた増田桜花、数珠を握り締め目が血走っている秋山美雪、そしてカッターの刃を限界まで出し、顔をひきつらせた斉藤白鳥だった。


「先生……死にたいのかしら? 私たちの翔太くんに、何をしているの?」


桜花の冷徹な声が響く。三人の背後には、黒いオーラが物理的な圧力となって渦巻いていた。


「あら、お邪魔虫の登場ね。でも残念、彼はもう私の『毒』が回っているわよ?」


意識を失いかける俺の横で、三人のヤンデレと一人の毒婦による、前代未聞の四者面談が始まろうとしていた。

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