第六回:血塗られた三者面談

カフェの個室。その狭い空間の空気は、マイナス百度まで冷え切っていた。


中央に座る俺、佐藤翔太を囲むようにして、三人の「彼女」が位置を取る。


正面には、優雅に足を組み、裁ち鋏をテーブルに置いた生徒会長・増田桜花。 右側には、数珠を握り締め、静かに怒りの経を唱えるような幼馴染・秋山美雪。 左側には、窓枠に腰掛け、美工刀の刃を出し入れして楽しげに笑う後輩・斉藤白鳥。


「さて……説明してもらえるかしら? 翔太くん」 桜花が静かに口を開いた。その声は、怒りを超えてもはや虚無に近い。 「この『泥棒猫』と『寄生虫』が、どうして自分のことを君の彼女だなんて自称しているのかを」


「泥棒猫? 心外ですね、会長さん」 美雪が冷笑を浮かべ、御神札をテーブルに叩きつけた。「私と翔太は幼い頃から結ばれる運命だった。後から現れて権力で縛り付けているのは、あなたの方でしょう?」


「あはは! 二人ともおばさんすぎて話にならないよ」 白鳥がカッターナイフの先を俺の喉元に向け、甘い声で囁く。「先輩が本当に求めているのは、私みたいな純粋な愛……ですよね? 先輩、この二人、今ここで『お掃除』しちゃいましょうか?」


三人の殺気が俺の全身を突き刺す。 言い訳はもう通用しない。嘘を重ねるスペースも残っていない。


「待ってくれ……三人とも、落ち着いて……」 「「「黙れ」」」


三人の声が重なり、俺は反射的に口を閉ざした。


「翔太くん。今ここで選びなさい」 桜花が裁ち鋏を手に取り、俺のネクタイを軽く挟んだ。「私を選ぶなら、この二人を今すぐここで拒絶して。そうすれば、これまでのことは『なかったこと』にしてあげる」


「いいえ、翔太。私を選びなさい」 美雪が俺の手を強く握りしめる。その指先からは、逃がさないという執念が伝わってくる。「この女たちの毒から、私が一生かけてあなたを浄化してあげるから」


「先輩……わかってますよね?」 白鳥が俺の耳元で吐息を漏らす。「私を選ばないなら、先輩の心臓、私がもらっちゃいますよ? 誰にも渡さないように、瓶に詰めてずっと眺めていたいんです」


三つの「究極の選択」が突きつけられる。 誰を選んでも、残りの二人に殺される。 誰も選ばなくても、三人全員に殺される。


俺の脳細胞は、オーバーヒート寸前でフル回転を始めた。 この絶体絶命の「三者面談」を生き残るための、唯一の、そして最も危険な賭け。


「……わかった。俺の答えを言うよ」


俺は震える手で、テーブルの上に三台のスマホを並べた。 黒、赤、白。 そして、それぞれの画面を見つめる三人の目を真っ直ぐに見返した。


「俺は――」


佐藤翔太の口から出た言葉は、救いか、それともさらなる地獄への招待状か。

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