第五回:地獄のエンカウント・ロイヤル

駅前ショッピングモール「アオバ・プラザ」。 そこは今、佐藤翔太にとって世界で最も危険なキルゾーンと化していた。


「翔太くん、指輪を選んでいる最中にスマホを見るなんて、余裕があるのね?」 目の前では、増田桜花が黒いレースの手袋を整えながら、冷徹な瞳で俺を射抜いている。


その時、俺の視界の端に「赤」と「白」が飛び込んできた。 一階の広場、エスカレーター付近に巫女服姿の秋山美雪。 そして二階の吹き抜けからこちらを覗き込んでいるのは、制服姿の斉藤白鳥だ。


(……詰んだ。物理的に、詰んだ!)


三人の位置関係を脳内マップに展開する。


【第一接触:白鳥の狙撃】

まず動いたのは白鳥だった。彼女は二階から手すりに身を乗り出し、俺と桜花の姿をスマホのカメラで捉えようとしている。 「……先輩? あの隣にいる黒い女、誰……?」 白鳥の声が、喧騒を突き抜けて俺の脳内に直接響く(ような気がした)。


俺は咄嗟に、桜花の視線を逸らすためにわざと指輪を床に落とした。 「あ、ごめん桜花! すぐ拾う!」 俺は床に這いつくばりながら、ポケットから白鳥用の白いスマホを取り出し、ブラインドタッチでメッセージを打ち込む。 『白鳥! 今、生徒会の怖い先輩に捕まって無理やり買い出しさせられてるんだ! 助けてくれ、でも近寄ると君まで怒られる! 離れた場所から見守っててくれ!』


【第二接触:美雪の探知】

次に迫りくるのは美雪だ。彼女は「穢れの気配」を察知し、一歩一歩階段を上がってくる。 「……この不浄な匂い。翔太、そこにいるのね?」 彼女の持つ神鈴が、チリン、と不吉な音を立てる。


「桜花! 喉が渇いたな。あそこの、一番奥の個室があるカフェに行かないか?」 俺は桜花の腰を抱くようにして、美雪の視線から死角になる柱の影へと誘導した。 「……急に積極的ね、翔太くん。いいわ、逃げられない場所でゆっくりお話ししましょうか」


桜花の言葉には棘があったが、今は背に腹は代えられない。


【第三接触:ロイヤル・ジャンクション】

カフェの個室に入った瞬間、三台のスマホが机の上で同時に絶叫した。


桜花(目の前): 「どうしてスマホを三台も持っているの?」


美雪(ドアの外): 「翔太、その扉の向こうにいるのは分かっているわ。開けなさい」


白鳥(窓の外): 「先輩、その女、殺しちゃってもいいですよね?」


カフェの薄い壁一枚を隔てて、三人のヤンデレが集結した。 桜花はゆっくりと裁ち鋏をカバンから取り出し、美雪はドアに手をかけ、白鳥はベランダから侵入しようとしている。


「……三人とも、落ち着いてくれ。話せばわかる」 「「「話すことなんて、ないわよね?」」」


三人の声が重なった瞬間、カフェの個室の扉が激しく蹴り開けられた。 佐藤翔太、本日三度目の――そして人生最後の、人生終了(デッドエンド)の幕が上がる。

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