第四回:放課後の瞬間移動(タイムリープ・ハック)

放課後を告げるチャイムは、俺にとって処刑台へのカウントダウンだった。 胃袋には昼休みの「三食分」が鉛のように溜まっているが、休む暇はない。


「よし……やるしかない」


俺はカバンの中に隠していた『秘密兵器』を確認した。 三種類の変装用メガネ、リバーシブルのジャケット、そして三台のスマホ。 目的地は、駅前のショッピングモール、裏山の秋山神社、そして校舎裏の旧校舎。


【フェーズ1:旧校舎の鬼ごっこ】

まずは最短距離の旧校舎へ。埃っぽい廊下で待ち構えていたのは、美工刀をカチカチと鳴らす斉藤白鳥だ。


「先輩、遅いですよ。……三秒以内に見つけてくれなかったら、この校舎ごと燃やしちゃおうかと思ってました」 「待て待て! ほら、見つけたぞ。はい、これ、白鳥に似合いそうなヘアピン!」


俺はあらかじめ用意していたプレゼントを渡し、彼女の注意をそらす。 「これをつけて自撮りして送ってくれ。最高に可愛い姿を保存したいんだ」 白鳥が嬉々として鏡を探しに教室へ入った隙に、俺は窓から飛び降りた。


【フェーズ2:秋山神社の全身検査】

自転車を全速力で漕ぎ、五分で秋山神社の参道へ。巫女服の秋山美雪が、御神刀の手入れをしながら待っていた。


「翔太、遅かったわね。……他の女の匂いを消すために、時間がかかったのかしら?」 「違うよ! 会長に……あ、いや、先生に補習で捕まってて。さあ、お祓いをしてくれ!」


美雪による「身体検査(お祓い)」が始まる。彼女の手が俺の首元や胸元をなぞる。心臓の鼓動で嘘がバレないよう、俺は必死にマインドフルネスを実践した。 「……よし、穢れは少ないわ。でも、念のために本殿で一時間の祈禱を……」 「ごめん美雪! 母さんが急に倒れたってメールが!」


俺は偽造した緊急メール画面を見せ、脱兎のごとく坂を駆け下りた。


【フェーズ3:ショッピングモールの監視網】

駅前のモールに滑り込み、トイレでリバーシブルのジャケットを裏返し、メガネをかける。 指定された宝飾店には、地雷系の私服で不機嫌そうにスマホを眺める増田桜花がいた。


「翔太くん、私のGPSによると、君はさっきまで山の方にいたみたいだけど?」 「……電波の混線だよ、桜花。それより、君に似合う指輪をずっと探してたんだ。ほら、これなんてどうかな?」


俺は震える手で、彼女に黒いストーンの指輪を指し示す。 「ふうん……悪くないわ。でも、私の指に嵌めるのは、一生私だけの奴隷になると誓ってからよ?」


桜花の鋭いネイルが、俺の指先に食い込む。その時、三台のスマホが同時にポケットで狂ったように震え出した。


白鳥からは、自撮り写真と一緒に『今、駅前に先輩に似た人がいたって友達から聞いたんですけど、まさかね?』というメッセージ。 美雪からは、『お母様のお見舞いに今から伺います。場所を教えなさい』という殺意のこもった追及。


そして目の前には、俺の顔をじっと覗き込む桜花。 「翔太くん、どうしてそんなに汗をかいているの? もしかして……また、嘘をついているのかしら?」


俺の「瞬間移動(ハック)」は、ここで限界を迎えた。 三人の距離が、物理的に、そして心理的に急速に縮まっていく。

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