第三回:トリプル・ランチ・ラビリンス
午前の授業の内容は、一つも頭に入らなかった。 俺、佐藤翔太の脳内は、ほぼ同時に届いた三通のメッセージによってパニック状態に陥っていたからだ。
【桜花:昼休み、生徒会室に来なさい。特製のステーキ弁当を作ったわ。遅れたら……承知してるわね?】 【美雪:翔太、いつもの場所(桜の木の下)で待っています。汚れを祓う精進料理を用意しました。残さず食べなさい。】 【白鳥:先輩ぉー! 屋上でキャラ弁作って待ってますっ! 来てくれないなら、このお弁当と一緒に飛び降りちゃいますから!】
「これ、昼飯(ランチ)じゃない……最後晩餐(ラストサパー)だ……」
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、俺は決死の覚悟で教室を飛び出した。
第一の戦場:校庭の裏、古びた桜の木の下。 そこには巫女服姿の秋山美雪が、神聖なオーラを纏って鎮座していた。
「翔太、三分の遅刻です」 美雪が冷ややかに目を開け、五穀米と煮物が詰まった重箱を差し出す。「さあ、あーんです。神前にお供えしたお米ですから、あなたの体に染み付いた『地雷』の臭いも消えるはずですよ」
「あ、ありがとう、美雪……」 俺は恐怖で縮み上がった喉に、無理やり五穀米を流し込む。 美雪の料理は絶品だが、今の俺には砂を噛むような緊張感しかない。机の下でこっそり黒いスマホ(桜花)の通知をチェックすると、そこには生徒会室の監視カメラが捉えた、苛立ちを隠せない生徒会長の姿が映っていた。
「美雪! 先生に呼び出されたのを忘れてた! また後でな!」 俺は怪訝な顔をする美雪を振り切り、全力で校舎へと走った。
第二の戦場:生徒会室。 扉の前で消臭スプレーを全身に噴射し、息を整えてからドアを開ける。
「会長! 遅れてすみません!」 「七分の遅刻よ、翔太くん」 会長席に座る増田桜花が、ぬいぐるみの小熊の首を赤いリボンで絞め上げながら微笑んでいた。デスクには、脂の乗ったA5ランク和牛のステーキ弁当が鎮座している。
「完食しなさい。もし残したら、あなたの愛はその程度だったと見なして……この小熊さんと同じ目にあってもらうわ」 「い、いただきますっ!」
胃袋はすでに美雪の精進料理で半分以上埋まっている。そこへ和牛の脂が追い打ちをかける。 「翔太くん、ボタンがきつそうね? 私に会う前に、どこかの泥棒猫に餌付けでもされたのかしら?」 「そ、そんなわけないよ! 会長のお弁当が美味しすぎて、胃袋が感動してるんだ!」
死ぬ気で和牛を詰め込み、最後の一片を飲み込んだ瞬間、白いスマホ(白鳥)が震えた。 【先輩、もう屋上のフェンスの外側に立ってます。あと一分で手を離しますねー!】
第三の戦場:屋上。 階段を駆け上がり、荒い息を吐きながら扉を開ける。 そこでは斉藤白鳥が、フェンスに背を向けて美工刀でタコさんウィンナーを「人の顔」の形に削り取っていた。
「先輩! やっと来ましたね」 白鳥が純粋無垢な笑顔で、ピンク色のデコ弁を差し出す。「これ、隠し味に私の『愛(血)』が入ってるんです。残さず食べて、私と一つになってくださいね?」
血!? 何を入れてるんだこの子は! 胃袋は限界を超え、逆流の危機が迫っている。だが、目の前で美工刀を弄ぶ後輩を前に「食べられない」とは言えなかった。俺は涙目で、甘すぎるキャラ弁を胃に押し込んだ。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。 教室へ戻る俺の足取りは、ゾンビのように重い。 三台のスマホが同時に振動した。
【桜花:放課後、ペアリングを買いに行くわよ】 【美雪:放課後、神社で全身のお祓い(身体検査)を行います】 【白鳥:放課後、旧校舎で二人きりのかくれんぼをしましょう。見つけられなかったら殺しちゃいますね】
俺は空を見上げ、そっと呟いた。 「……神様、今すぐ俺を異世界に転生させてくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます