​第七章:砂漠に咲く睡蓮、市場に吹く新しい風


​第七章:砂漠に咲く睡蓮、市場に吹く新しい風


​1. 護衛官ホセインと侍女インジの隠された恋

​あの「王女救出劇」の際、背中を合わせ、命がけで戦ったホセインとインジ。

王女を守るという共通の目的を持っていた二人の間に、密かな感情が芽生えるのは必然でした。ホセインの磨き抜かれた剣(シムシャール)と、インジの「真珠」のような細やかな気遣い。二人は今、宮殿の警備を統括しながら、王女ニルファルの恋路を陰で支える最大の理解者となっています。


​2. 売り子ダネシュの「世界的ベストセラー」

​ダネシュは、あの日目撃した全てを『ペルシャの市場にて』という名の叙事詩として書き上げました。

「知識」を売っていた彼は、今や「感動」を売る男になりました。彼の書いた物語は、サイラスの隊商の手によってシルクロードを渡り、はるか西洋や東洋の果てまで届けられました。かつて名前も知らなかった遠い国の民が、ダネシュの文字を通じて「ニルファル」の名を呼び、市場の喧騒に想いを馳せるようになったのです。


​3. 占い師ジャレの遺志を継ぐもの

​年老いたジャレは、ある穏やかな夜、微笑みを浮かべて眠るようにこの世を去りました。

彼女の最期の言葉は「未来を当てることより、今を愛する方がずっと難しい」というものでした。彼女の天幕を引き継いだのは、実は物乞いの長老だったカビールでした。彼は未来を占うのではなく、市場に迷い込んだ人々の「悩み」を聞く、賢者として新たな人生を歩み始めました。


​4. 王女ニルファルの「本当の統治」

​輿の中から世界を見ていたニルファルは、もう一人で歩くことを恐れません。

彼女は時折、高貴な身分を隠し、一人の女性としてイナズの店を訪れます。そこで市場の本当の「声」を聞き、王レザに助言をするのです。王女の提案により、市場には「水の広場」が作られ、旅人も物乞いも、誰もが平等に渇きを癒せる場所が誕生しました。


​エピローグ:永遠の旋律

​太陽が沈む頃、市場には再びあの懐かしい足音が響きます。

​「……ザッ、ザッ、ザッ……」

​それはサイラスの隊商が、また新たな異国の宝物を持って帰ってきた合図です。

サイラスが市場の入り口に立つと、そこには必ずシャヒーンが空を見上げ、シャハブが影のように控え、ホセインが鋭い視線を向けつつも、口元には微かな笑みを浮かべています。

​彼らが一堂に会する時、市場はあの日と同じ、黄金色の奇跡に包まれます。

時計の針はもう止まりませんが、彼らが共に過ごしたあの瞬間の記憶は、ペルシャの風に乗って、永遠に鳴り止まない音楽(ケテルビー)のように、世界中を駆け巡り続けるのです。
























著者:比奈我弥生(ひながやよい)

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本作は、創作物語であり、登場する団体・人物(一部の実在人物を除く)は架空のものです。

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小説 ペルシャの市場にて velvetcondor gild @velvetcondor

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