​第三章:静止する刻(とき)、黄金の邂逅(かいこう


​小説:ペルシャの市場にて

​第三章:静止する刻(とき)、黄金の邂逅(かいこう)


​1. 砂塵の咆哮、市場への突入

​「開け!道を開けろ!アラーの御名において、サイラスの隊商が通る!」

​市場の入り口が激しく揺れた。砂漠を死に物狂いで越えてきたサイラスとシャヒーンが、黄金の砂塵を纏いながら市場へとなだれ込んできたのだ。ラクダたちの蹄が市場の石畳を叩く音は、まさにオーケストラの打楽器のように激しく鳴り響く。

​「間に合った……ジャレの婆さんの予言に、一秒の狂いもなく到着だ!」

シャヒーンが叫び、ラクダの背から市場を見渡す。そこには、すでに熱病のような期待感に包まれた群衆が、波のようにうねっていた。


​2. 市場の売り子たちと、物乞いの祈り

​市場の最前線では、ダネシュが最高の声で叫び続けている。

「見ろ!サイラスが持ってきた青い絹だ!これこそ王女様に相応しい色だ!」

隣ではイナズが、色鮮やかな野菜や果実をピラミッドのように積み上げ、その瑞々しい香りが市場の砂っぽさを一時だけ忘れさせる。

​その足元では、長老カビールを筆頭とする物乞いたちが、自分たちの体を「人間の壁」にして、王女の通り道を確保していた。

「……来るぞ。空気が変わった。祈れ、皆の衆。奇跡が通り過ぎるぞ」

彼らの低い「バクシーズ(お恵みを)」という声が、地鳴りのように市場の底を流れていく。


​3. 「時計の針が止まる」瞬間

​その時だった。

市場の広場の巨大な大時計が、最後の一秒を刻んで動かなくなった。

​風が止まり、商人の怒鳴り声が消え、蛇使いシャハブの笛さえもが、不気味な静寂の中に吸い込まれた。

​市場の奥から、ゆらりと現れたのは、黄金色の空気を切り裂くような青い輿(こし)であった。馬に引かれ、ゆっくりと進むその車窓から、王女ニルファルが静かに外を見つめている。

​絵の中の彼女の視線が、市場の売り子と、そして今しがた到着したばかりのサイラスの視線と交差する。

​「……あの方が、睡蓮の王女……」

サイラスは息を呑んだ。砂漠を越えてきた勇者の荒々しい心が、彼女のたおやかな姿を目にした瞬間、鏡のような水面に変わった。

​「ホセイン、盾を掲げろ。王女様に一粒の砂も触れさせるな!」

護衛官ホセインの三日月刀が、太陽の光を反射して銀色に輝く。背後には、部族長の妃イレムが、傲慢なまでに美しい微笑を浮かべて、侍女インジを従えていた。


​4. 運命の合流

​まさにこの時、市場の反対側からは、金色の甲冑を纏った王、レザの行列が近づいていた。

​サイラスの隊商、カビールの物乞い、ジャレの予言、ニルファルの輿、そしてレザ王。

​パズルの一片一片がはまるように、すべてのキャストが、市場の広場中央で一点に集まった。

​市場の時計は止まったまま。

だが、人々の心臓は、かつてないほど激しく打ち鳴らされていた。

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