第2章:絆と成長

第11話:A級冒険者の日常

朝日が、窓から差し込んでくる。


目を覚ますと、体が軽い。昨日の疲れは、完全に回復している。


「ふぁ……」


あくびをしながら、ベッドから起き上がる。


リューイは、俺の隣で丸くなって眠っている。


「キュゥゥ……」


寝息を立てている姿が、可愛い。


「起きろ、リューイ。朝だぞ」


リューイの頭を撫でる。


「キュルル……?」


ゆっくりと目を開けるリューイ。


「キュゥゥ♪」


伸びをして、俺の肩に飛び乗ってくる。


「よし、顔を洗って——アナスタシアと合流するか」


簡単に身支度を整えて、部屋を出る。


***


隣の部屋のドアをノックする。


「アナスタシア、起きてるか?」


「はい、起きてます。少し待ってください」


数秒後、ドアが開く。


そこには——


エメラルドグリーンの髪を綺麗に整えたアナスタシアが立っていた。


白いブラウスに、茶色のズボン。腰には、俺が作った剣。


「おはようございます、奏多さん」


「ああ、おはよう」


朝日に照らされたアナスタシアの笑顔が——綺麗で、思わず見惚れてしまう。


(いかん、いかん……)


「朝食、食べに行きましょうか」


「ああ」


二人で、宿屋の食堂へ向かう。


***


食堂には、既に何人かの宿泊客がいた。


冒険者風の男たち、商人らしき老人、旅の家族——


俺たちが席につくと、何人かの視線がこちらに向く。


「あれ、もしかして……」


「ああ、昨日ゴブリンキングとワイバーンを倒した新人だろ?」


「マジかよ……若いのに、すげぇな」


ヒソヒソと話す声が聞こえてくる。


「有名になっちゃったみたいだな……」


苦笑しながら、アナスタシアに言う。


「ふふ、それだけすごいことをしたということですよ」


アナスタシアが、クスクスと笑う。


その笑顔を見て——


(可愛い……)


と思ってしまう。


最近、こういうことが多い。


アナスタシアの笑顔、仕草、声——


全てが、気になってしまう。


(これって……まさか……)


「奏多さん? どうかしましたか?」


「え? あ、いや、何でもない!」


慌てて否定する。


「?」


アナスタシアが、不思議そうに首を傾げる。


その仕草も、可愛い。


(まずい……俺、どうしちゃったんだ……)


***


朝食は、パンとスープ、それにベーコンエッグ。


シンプルだが、美味しい。


「今日は、どうしますか?」


アナスタシアが、スープを飲みながら尋ねる。


「そうだな……まず、ギルドに行って依頼を確認しようか」


「はい。A級依頼なら、より高難度のものがあるはずです」


「ああ。もっと強くならないとな」


昨日の戦いで、レベル45まで上がった。


でも、まだまだ足りない。


この世界には、もっと強い魔物や敵がいるはずだ。


「それに——」


アナスタシアの表情が、少し曇る。


「帝国の追っ手も、まだ諦めていないでしょうから……」


そうだ。


昨日の夜襲は撃退したが、あれで終わりとは思えない。


「大丈夫だ。お前を守るのは、俺の役目だから」


「奏多さん……」


アナスタシアの瞳が、潤む。


「ありがとうございます。でも——私も、奏多さんを守りたいです」


「……ああ。お互い、守り合おう」


二人で、微笑み合う。


「キュルルル!」


リューイも、嬉しそうに鳴く。


***


朝食を終えて、冒険者ギルドへ向かう。


街は、朝から活気に満ちている。


露店では、野菜や果物が売られている。


鍛冶屋からは、金槌の音が響いている。


子供たちが、路地で遊んでいる。


「平和だな……」


「はい。この平和を、守りたいですね」


「ああ」


ギルドに到着すると——


扉を開けた瞬間、視線が一斉にこちらに集まった。


「……」


気まずい。


これほど注目されるのは、地球でのイジメを思い出す。


でも——


あの時とは違う。


今の視線は、敵意ではない。


好奇心と、少しの尊敬が混じっている。


「おい、本当に彼らがゴブリンキングを倒したのか?」


「ワイバーンも倒したらしいぞ」


「若いのに、すげぇな……」


「エルフの娘、綺麗だな……」


ざわざわと、噂話が聞こえてくる。


「行こう、アナスタシア」


「はい」


視線を無視して、受付カウンターへ向かう。


***


「あ、おはようございます! 皇様、アナスタシア様!」


受付嬢が、満面の笑みで迎えてくれる。


昨日とは、明らかに態度が違う。


「おはようございます」


「今日は、どのようなご用件で?」


「A級依頼を確認したいんですが」


「かしこまりました。A級依頼は、こちらの特別掲示板にございます」


受付嬢が、奥の扉を指差す。


「ありがとうございます」


扉を開けると——


そこには、別の部屋があった。


高級な内装。革張りのソファ。大きな暖炉。


そして、壁には大きな掲示板。


「これがA級冒険者専用ルームか……」


部屋には、数人の冒険者がいる。


全員、レベル50前後。ベテラン揃いだ。


「おや、新顔か?」


筋肉質な大男が、こちらに声をかけてくる。


身長2メートルはある。全身傷だらけ。ベテランの風格。


「ああ。昨日、A級に昇格した」


「ほう……若いのに、A級とはな。なかなかやるじゃねぇか」


男が、ニヤリと笑う。


「俺はガレス。A級冒険者パーティー【蒼き刃】のリーダーだ」


「皇奏多です。こちらは、アナスタシア」


「よろしく」


ガレスが、豪快に笑う。


「なあ、奏多。良かったら、俺たちのパーティーに入らないか? 若い才能は大歓迎だ」


「え……」


突然の勧誘に、戸惑う。


「俺たちは4人パーティーだが、もう一人入れる余裕がある。お前みたいな若者が入れば——」


「すみません」


俺は、丁重に断る。


「今は、二人で成長したいんです」


「……そうか」


ガレスは、少し残念そうな顔をするが——


すぐに笑顔に戻る。


「分かった。無理には誘わねぇ。でも、困ったことがあったら、いつでも声をかけてくれ」


「ありがとうございます」


「それじゃあな」


ガレスは、手を振って部屋を出ていった。


***


「断って、良かったんですか?」


アナスタシアが、心配そうに尋ねる。


「ああ。今は——お前と二人で、冒険したいんだ」


そう言ってから——


(今、何て言った……?)


自分の言葉に、驚く。


「お前と二人で」——そんな言葉が、自然と出てきた。


「奏多さん……」


アナスタシアが、顔を赤らめる。


「わ、私も……奏多さんと二人が……いいです……」


小さな声で、呟く。


二人とも、顔が熱い。


「キュルル?」


リューイが、不思議そうに俺たちを見つめている。


「と、とにかく! 依頼を確認しよう!」


慌てて話題を変える。


「は、はい!」


***


掲示板には、様々な高難度依頼が貼られている。


『ワイバーン討伐依頼

場所:北の山岳地帯

報酬:金貨50枚

ランク:A級

詳細:ワイバーンが村を襲っている。討伐を求む。レベル52。』


『古代魔獣退治依頼

場所:東の古代遺跡

報酬:金貨80枚

ランク:A級以上

詳細:遺跡から古代魔獣が目覚めた。レベル60。非常に危険。』


『盗賊団討伐依頼

場所:南の街道

報酬:金貨30枚

ランク:A級

詳細:凶悪な盗賊団が街道を封鎖。討伐を求む。リーダーはレベル48。』


『魔導生物暴走事件

場所:西の魔法研究所

報酬:金貨60枚

ランク:A級

詳細:研究所で魔導生物が暴走。鎮圧を求む。レベル55。』


「どれも、難しそうだな……」


「はい。でも——やりがいがありそうです」


アナスタシアが、真剣な表情で依頼書を見つめる。


「どれにする?」


「そうですね……このワイバーン討伐は、どうでしょうか?」


アナスタシアが、一枚の依頼書を指差す。


「ワイバーンか……確かに、俺たちの実力に合ってるかもな」


レベル52のワイバーン。


俺はレベル45。アナスタシアはレベル40。


少し格上だが——三人なら、勝てるはずだ。


「よし、これにしよう」


依頼書を手に取り、受付へ向かう。


***


「この依頼を受けます」


「ワイバーン討伐ですね。かしこまりました」


受付嬢が、依頼を受理する。


「ワイバーンは、非常に強力な魔物です。十分にお気をつけください」


「ああ、ありがとう」


「それでは、良い冒険を」


ギルドを出て、準備を整えることにする。


「まず、装備を確認しないとな」


「はい。それから、回復薬も買い足しましょう」


「ああ」


***


武器屋で、剣の手入れ用品を購入。


防具屋で、鎧の破損箇所を修理。


薬屋で、回復薬(中級)を10本購入。


食料屋で、携帯食料を3日分購入。


全て合わせて、金貨5枚。


「よし、準備完了だな」


「はい」


「じゃあ、明日の朝早く出発しよう。今日は、ゆっくり休もう」


「分かりました」


***


宿屋に戻り、部屋で休憩する。


ベッドに横になり、天井を見つめる。


(A級冒険者か……)


異世界に来て、まだ1週間ほど。


なのに、もうA級冒険者になった。


地球では、何も持っていなかった俺が——


今は、こんなにも強くなった。


(全部、女神様のおかげだ……)


女神様が授けてくれた4つのスキル。


リューイ。


そして——アナスタシア。


(アナスタシア……)


彼女のことを考えると、胸が温かくなる。


最初は、ただの仲間だと思っていた。


でも——


最近、違う気持ちが芽生え始めている。


彼女の笑顔を見ると、嬉しくなる。


彼女が傷つくと、自分のことのように辛くなる。


彼女を守りたい——その想いが、日に日に強くなっている。


(これって……もしかして……)


恋——?


俺が、恋をしている……?


地球では、一度も恋愛をしたことがなかった。


イジメられていて、そんな余裕はなかった。


でも——


(今は、違う……)


俺は、強くなった。


自信を持てるようになった。


そして——


アナスタシアという、大切な人ができた。


(でも……俺なんかが、アナスタシアを好きになっていいのか……?)


彼女は、元王女だ。


美しくて、気品があって、優しくて——


俺なんかとは、釣り合わない。


(それに……俺は、彼女を守る役目なんだ……)


変な感情を持つべきじゃない——


そう、自分に言い聞かせる。


でも——


心は、正直だった。


***


夕方、アナスタシアと一緒に夕食を取る。


宿屋の食堂で、シチューとパンを食べる。


「美味しいですね」


「ああ」


アナスタシアが、幸せそうに微笑む。


その笑顔を見て——


また、胸が温かくなる。


(やっぱり……俺……)


「奏多さん?」


「ん?」


「また、ぼーっとしてますよ。最近、多いですね」


「あ、ああ……ちょっと、色々考えててな」


「何を考えているんですか?」


「え……えっと……」


答えに詰まる。


まさか、「お前のことを考えてた」なんて言えない。


「明日の……戦闘のこととか……」


「そうですか。確かに、ワイバーンは強敵ですものね」


「ああ……」


何とか、ごまかせた。


アナスタシアは、また食事を続ける。


その横顔を——


俺は、ただ見つめていた。


***


夜、部屋で一人になる。


ベッドに横になり、目を閉じる。


でも——眠れない。


アナスタシアのことが、頭から離れない。


(明日……ワイバーンとの戦い……)


もし、アナスタシアが怪我をしたら——


もし、アナスタシアが危険な目に遭ったら——


考えただけで、胸が苦しくなる。


「絶対に……守る……」


強く、誓う。


俺は、アナスタシアを——


絶対に、守る。


それが、俺の役目だから。


そして——


(俺の、想いだから……)


ようやく、自分の気持ちを認める。


俺は——アナスタシアが、好きだ。


でも——


まだ、伝えられない。


今は、ただ——


彼女を守ることだけを、考えよう。


***


翌朝、早朝4時に起床。


身支度を整え、アナスタシアの部屋へ。


ノックすると——


「はい、準備できてます」


すぐに扉が開く。


アナスタシアは、既に戦闘装備を身につけていた。


「早いな」


「はい。楽しみで、あまり眠れませんでした」


「楽しみ……か」


俺は、不安の方が大きかったが——


アナスタシアの前では、そんな弱音は吐けない。


「よし、行くか」


「はい!」


「キュルルル!」


リューイも、やる気満々だ。


***


街の北門を出て、山岳地帯へ向かう。


朝日が、地平線から昇り始める。


オレンジ色の光が、世界を照らす。


「綺麗ですね……」


アナスタシアが、朝日を見つめて呟く。


「ああ……」


二人並んで、朝日を見る。


この瞬間が——


永遠に続けばいいのに、と思った。

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