第9話:深まる絆
翌朝、宿屋の食堂で朝食を取る。
テーブルには、パン、ソーセージ、スクランブルエッグ、それにスープが並んでいる。
「美味しいですね」
アナスタシアが、幸せそうに微笑む。
「ああ。久しぶりに、ちゃんとした食事をした気がする」
森での野営生活も悪くなかったが、やはり温かい料理は格別だ。
「キュルルル♪」
リューイも、自分の皿のソーセージを美味しそうに食べている。
食堂には、他の冒険者たちもいる。朝から酒を飲んでいる者、依頼の打ち合わせをしている者、様々だ。
「なあ、聞いたか? 昨日、新人がゴブリンキングを倒したらしいぞ」
「マジかよ。新人でゴブリンキングなんて、信じられねぇ」
「しかも、エルフの美女と一緒だったらしい」
「いいなぁ……俺も美女と組みたいぜ」
冒険者たちの会話が聞こえてくる。
どうやら、俺たちのことを話しているようだ。
「有名になっちゃったな……」
「ふふ、それだけすごいことをしたということですよ」
アナスタシアが、クスクスと笑う。
その笑顔が——綺麗で、思わず見惚れてしまう。
(いかん、いかん……)
慌てて視線を逸らす。
「それで、今日はどうする?」
「そうですね……まず、昨日の戦利品を売りに行きましょうか」
「ああ、それがいいな」
朝食を終えて、街へ出る。
***
最初に向かったのは、武器屋だ。
ゴブリンから奪った武器や、ゴブリンキングの棍棒を売るために。
「いらっしゃい。おお、あんたら——昨日のゴブリンキング討伐の英雄じゃねぇか!」
店主が、目を輝かせて迎えてくれる。
「噂になってるんですか?」
「ああ。街中で話題だぜ。新人冒険者が初依頼でゴブリンキングを倒すなんて、前代未聞だからな」
「そうですか……」
「それで、今日は何を?」
「これらを、買い取ってもらいたいんですが」
アイテムボックスから、武器を取り出す。
ゴブリンの槍×10、斧×8、それに——ゴブリンキングの棍棒。
「おお……これは……」
店主が、棍棒を手に取る。
「これ、ゴブリンキングの棍棒か……? すげぇ……重いが、丈夫だ。これなら、金貨30枚は出せる」
「30枚!?」
「ああ。こんな上質な素材、滅多に手に入らねぇからな」
他の武器も、合わせて金貨5枚で買い取ってもらえた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。また何かあったら、よろしく頼むぜ」
***
次に向かったのは、魔石商だ。
ゴブリンキングの魔石を売るために。
「いらっしゃいませ。魔石の買取ですか?」
「はい。これを」
【ゴブリンキングの魔石(特大)】を取り出す。
商人の目が、見開かれる。
「こ、これは……! ゴブリンキングの魔石……!? しかも、こんなに大きくて純度が高い……」
商人が、何度も魔石を確認する。
「これは……金貨80枚で買い取らせていただきます」
「80枚……!?」
「はい。これほどの魔石は、非常に貴重です。魔道具の製作に使えば、最高級品が作れるでしょう」
金貨80枚——これで、当分は生活に困らない。
他の魔石も、合わせて金貨15枚で買い取ってもらった。
「ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。また良い魔石が手に入ったら、ぜひ当店へ」
***
最後に、宝石商へ。
ゴブリンキングの王冠と、ゴブリンたちが集めていた宝石を売るために。
「いらっしゃいませ……おや、あなたたちは……」
老齢の宝石商が、メガネ越しに俺たちを見る。
「ゴブリンキング討伐の若者たちですね。噂は聞いております」
「はい。これらを買い取っていただきたいのですが」
王冠と、様々な宝石を取り出す。
ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンド——
「ほほう……これは、なかなかの品々ですな……」
宝石商が、一つ一つ丁寧に鑑定していく。
「こちらの王冠は……金貨50枚。宝石類は、合わせて金貨30枚。いかがでしょうか?」
「お願いします」
金貨80枚を受け取る。
「ありがとうございました」
「いえいえ。また良い品があれば、ぜひ」
***
宝石商を出て、所持金を確認する。
武器売却:金貨35枚
魔石売却:金貨95枚
宝石売却:金貨80枚
ゴブリン巣窟の財宝:金貨100枚
依頼報酬:金貨5枚
合計:金貨315枚
さらに、銀貨が500枚以上。
「すごい……こんなに……」
「本当ですね。これだけあれば、しばらくは安心です」
「アナスタシア、この金は二人で分けよう」
「え? でも……」
「いいんだ。俺たちは、仲間だろ? 仲間なら、分け合うのが当然だ」
「……ありがとうございます」
アナスタシアの瞳が、潤む。
「では、半分ずつ。金貨157枚ずつだな」
「はい」
金貨を分ける。
「これで、お前も当分は困らないだろ」
「はい……本当に、ありがとうございます」
アナスタシアが、深々と頭を下げる。
「頭を上げてくれ。俺たちは、対等な仲間なんだから」
「……はい」
***
「せっかくだから、装備を新調しようか」
「そうですね。もっと良い装備があれば、戦闘も楽になります」
防具屋に向かう。
「いらっしゃい……おお! ゴブリンキング討伐の英雄たち!」
またしても、店主が目を輝かせる。
どうやら、本当に街中で噂になっているらしい。
「最高の鎧を見せてやるぜ! こっちだ!」
店主が、奥の部屋へ案内してくれる。
そこには——
「これは……」
美しい鎧が、展示されていた。
銀色に輝く鎧。軽量で、動きやすそうだ。魔法の加護が施されているのか、淡く光を放っている。
「これは【ミスリル製軽鎧】。軽くて丈夫で、魔法防御も高い。冒険者にとって、最高の一品だ」
「いくらですか?」
「金貨50枚だ」
「……高いな」
「でも、それだけの価値がある。命を守る装備に、金を惜しむべきじゃない」
店主の言葉に、納得する。
確かに、装備は命に関わる。
「分かりました。これを二着ください」
「二着!? 太っ腹だな!」
俺とアナスタシアの分、合わせて金貨100枚。
高い買い物だが、必要な投資だ。
「それから、これもサービスだ」
店主が、マントを二枚取り出す。
「【風の外套】。風の精霊の加護を受けたマントだ。身につければ、動きが速くなる」
「いいんですか?」
「ああ。英雄には、それなりの装備が必要だからな」
「ありがとうございます」
新しい装備を身につける。
鎧は軽く、まるで着ていないかのよう。でも、確かな防御力を感じる。
マントは柔らかく、風を纏ったような感覚。
「似合ってるぜ、二人とも」
「ありがとうございます」
アナスタシアも、新しい装備に身を包んでいる。
銀色の鎧が、彼女のエメラルドグリーンの髪によく映える。
風の外套が、優雅に揺れる。
「……綺麗だ」
思わず、呟いてしまう。
「え? 何か言いましたか?」
「い、いや、何でもない!」
慌てて否定する。
顔が熱い。
「ふふ……」
アナスタシアが、微笑む。
その笑顔に、また胸が高鳴る。
(まずい……俺、もしかして……)
***
装備を整えて、街を歩く。
「次は、どうする?」
「そうですね……もう少し、レベルを上げたいです。強い魔物と戦って、もっと強くなりたい」
「ああ、俺も同じことを考えてた」
冒険者ギルドに戻り、依頼を確認する。
掲示板には、様々な依頼が貼られている。
『ワイバーン討伐依頼 報酬:金貨30枚 ランク:A級以上』
『古代遺跡探索依頼 報酬:金貨20枚 ランク:B級以上』
『盗賊団討伐依頼 報酬:金貨15枚 ランク:B級以上』
「ワイバーン……か。でも、これはA級以上だから、俺たちじゃ受けられないな」
「はい。まだ、B級ですから」
「なら、これはどうだ?」
俺が指差したのは——
『古代遺跡探索依頼
場所:ルミナス王都東部の森林地帯
報酬:金貨20枚+発見した財宝の50%
ランク:B級以上
詳細:古代魔法文明の遺跡が発見された。内部の探索と、財宝の回収を求む。ただし、遺跡内には強力な魔物や罠が存在する可能性あり。注意されたし。』
「遺跡探索……面白そうですね」
「ああ。それに、財宝の50%も手に入る」
「では、これを受けましょう」
依頼書を受付に持っていく。
「この依頼を受けます」
「古代遺跡探索ですね。かしこまりました」
受付嬢が、説明を始める。
「遺跡は、街の東、徒歩で2時間ほどの場所にあります。森の中ですので、道は険しいです。それと——」
受付嬢の表情が、真剣になる。
「遺跡内には、非常に強力な魔物がいるという報告があります。レベル50を超える魔物も確認されています。十分に注意してください」
「レベル50……!?」
俺は、レベル35。アナスタシアは、レベル30。
レベル差が、15もある。
「大丈夫ですか? 無理はしないでくださいね」
「ああ。気をつける」
依頼を受理して、ギルドを出る。
***
「レベル50か……正直、不安だな」
「そうですね。でも——」
アナスタシアが、俺を見つめる。
「奏多さんとなら、大丈夫だと思います」
「アナスタシア……」
「奏多さんは、いつも冷静で、強くて——私を守ってくれます。だから、信じています」
その言葉に、胸が熱くなる。
「……ありがとう。俺も、お前を信じてる」
「はい」
二人で微笑み合う。
「キュルルル!」
リューイも、嬉しそうに鳴く。
「よし、行くか。遺跡探索だ!」
「はい!」
街の東門を出て、森へ向かう。
新しい冒険が、始まる。
***
森を2時間ほど歩くと——
前方に、巨大な石造りの建造物が見えてきた。
「あれが……遺跡か……」
木々の間から覗く、古代の建造物。
苔むした石壁。崩れかけた柱。時の流れを感じさせる、荘厳な佇まい。
「すごい……こんな遺跡が、こんなところに……」
「古代魔法文明の遺跡です。数千年前、この大陸には高度な魔法文明が栄えていたと言われています」
「数千年前……」
遺跡に近づくと、その規模の大きさに圧倒される。
正面には、巨大な門。高さ10メートルはある。
門の両脇には、石像が立っている。剣を持った戦士の像と、杖を持った魔法使いの像。
「門が、開いてる……」
「先客がいたのでしょうか……?」
「かもな。気をつけよう」
剣を抜き、警戒しながら門をくぐる。
***
門の向こうは——
広大な空間が広がっていた。
天井は高く、20メートルはある。壁には、複雑な魔法陣が刻まれている。床は、大理石のような白い石でできている。
そして——
奥には、階段が見える。地下へと続く、暗い階段。
「地下に続いてるのか……」
「おそらく、遺跡の本体は地下にあるのでしょう」
階段を降りようとした、その時——
ゴゴゴゴゴ……
地面が揺れた。
「!?」
壁に刻まれた魔法陣が、光り始める。
青白い光が、空間全体を照らす。
そして——
シュゴォォォッ!
魔法陣から、何かが飛び出してきた。
それは——
体長2メートルの、石でできた人型の魔物。
いや、魔物ではない。
ゴーレム——魔法で作られた、自動人形。
頭上にウィンドウが表示される。
+++
【ストーンゴーレム】×3
レベル:45
種族:魔法生物
スキル:
・石化の拳(ペトリファイドフィスト)
・鉄壁(アイアンボディ)
・魔法無効(アンチマジック)
+++
「レベル45……!? しかも、3体!?」
「奏多さん!」
3体のゴーレムが、同時に動き出す。
重い足音。
ドシン、ドシン、ドシン……
「来るぞ……!」
最初のゴーレムが、拳を振り下ろしてくる。
巨大な石の拳。
直撃すれば、即死だ。
「【疾風歩】!」
風のように跳び、回避。
ドガァァァンッ!!!
拳が、床に叩きつけられる。
床が砕け、破片が飛び散る。
「硬い……そして、重い……!」
次——二体目のゴーレムが、横から拳を放ってくる。
「【鉄壁守】!」
バリアを展開。
ガキィィィンッ!!!
衝撃で、体が横に滑る。
「くっ……!」
三体目のゴーレムが、アナスタシアを狙っている。
「アナスタシア!」
「大丈夫です!」
アナスタシアが、優雅に跳ぶ。
ゴーレムの拳を、軽々と回避。
そして——
「【精霊剣舞】!」
連続斬撃を、ゴーレムに叩き込む。
ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!
でも——
「効いてない……!?」
斬撃が、ゴーレムの体表を滑る。
ほとんど、ダメージが入っていない。
「【鉄壁】のスキルで、防御力が高すぎる……!」
「どうすれば……」
二人とも、困惑する。
斬撃が効かない。
魔法も、【魔法無効】で効かない。
なら——
「力で、粉砕するしかない……!」
【金剛拳】!
闘気を込めた拳を、ゴーレムの胸に叩き込む。
ドガァァァッ!!!
「……!」
ゴーレムの体に、亀裂が入る。
「効いた……!」
でも——完全には壊れない。
「もっと、強力な攻撃が必要だ……!」
【雷神降臨】!
全身を雷光化。
超高速で、ゴーレムの周囲を駆け巡る。
【金剛拳】を連打する。
ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ!
十発、二十発、三十発——!!!
ついに——
バキィィィンッ!!!
ゴーレムの体が、砕け散る。
一体目、撃破。
「はぁ……はぁ……」
MPが、大幅に減る。
でも——まだ、2体いる。
「奏多さん、私も全力でいきます!」
アナスタシアが、剣を構える。
その剣が、虹色の光を放ち始める。
「【精霊王の一閃】!」
究極の一撃が、ゴーレムを貫く。
ズガァァァンッ!!!
ゴーレムの胸に、大きな穴が開く。
「やった……!」
二体目、撃破。
残り——1体。
「「いくぞ……!」」
二人同時に、攻撃を仕掛ける。
俺の【雷神降臨】と、アナスタシアの【精霊王の一閃】。
二つの力が、最後のゴーレムを——
粉砕した。
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