第6話:謎の少女との出会い

草原を30分ほど走っていると——


前方に、何か倒れているものが見えた。


「あれは……?」


最初は、岩か何かだと思った。


でも、違う。


近づいてみると——


それは、人だった。


「人……!?」


慌てて駆け寄る。


倒れているのは——少女だった。


エメラルドグリーンの長い髪。尖った耳。白い肌。


エルフ——


そして、その体には、無数の傷があった。


服はボロボロに破れ、血が滲んでいる。腕、足、腹部——至る所に、深い傷がある。特に左肩の傷は深く、骨が見えそうなほどだ。


「これは……ひどい……」


少女の顔を見て——


俺は、息を呑んだ。


美しかった。


傷だらけでも、その美しさは隠せない。


整った顔立ち。長いまつ毛。形の良い唇。


でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。


「おい! 大丈夫か!?」


少女の体に触れる。


冷たい。


体温が、かなり下がっている。


呼吸は——ある。浅いが、まだ生きている。


脈も——弱いが、感じる。


「まだ、助かる……!」


すぐに、【究極鍛冶】で布と包帯を作る。


そして、傷を手当てする。


「まず、止血だ……」


最も深い左肩の傷に、布を当てる。


強く押さえて、出血を止める。


血が、布を赤く染めていく。


「くそっ……血が、止まらない……」


焦る。


でも、焦っても仕方ない。


落ち着け。落ち着いて——


(そうだ、【究極鍛冶】で薬を作れないか……?)


イメージする。


止血剤。傷薬。回復薬——


すると——


手の中に、小さな瓶が現れた。


緑色の液体が入った瓶。


『回復薬(下級)』


「できた……!」


瓶の蓋を開け、少女の口に含ませる。


ゴクゴクゴク……


少女が、無意識に飲み込む。


そして——


傷が、ゆっくりと塞がり始めた。


「効いてる……!」


でも、完全には治らない。


下級の回復薬では、この深い傷は完治しない。


「もっと強力な薬を……」


再び、【究極鍛冶】を発動。


今度は、中級の回復薬をイメージする。


手の中に、青い液体が入った瓶が現れる。


『回復薬(中級)』


「これを……」


少女の口に、再び含ませる。


ゴクゴクゴク……


すると——


傷が、みるみる塞がっていく。


深かった左肩の傷も、どんどん浅くなっていく。


腕や足の傷も、消えていく。


「すげぇ……」


5分ほどで、全ての傷が完全に塞がった。


跡も、ほとんど残っていない。


「よかった……助かった……」


ホッと息をつく。


でも——


少女は、まだ意識を失っている。


「体力が、かなり消耗してるのか……」


このまま放置するわけにはいかない。


「とりあえず、安全な場所に運ばないと……」


周囲を見回す。


ここは、草原の真ん中。


遮るものが何もない。


魔物が来たら、危険だ。


「あそこか……」


少し離れた場所に、大きな岩がある。


その陰なら、少しは隠れられる。


少女を抱き上げる。


軽い。


女性だから当然だが——それにしても軽すぎる。


栄養が足りていないのか……?


「キュルル……」


リューイが、心配そうに少女を見つめている。


「大丈夫。助けるから」


岩の陰まで運び、そっと寝かせる。


【究極鍛冶】で毛布を作り、少女にかける。


「これで、少しは温かいだろう……」


***


それから——俺は、少女の回復を待った。


岩の陰で、焚き火を起こす。


少女の体を温めるために。


そして、簡単なスープを作る。


【究極鍛冶】で鍋を作り、水と野菜を入れて煮込む。


野菜は、草原で見つけたもの。食べられるかどうか分からなかったが、【究極鍛冶】のスキルで「毒性:なし」と判定できた。


ジュゥゥゥ……


スープが煮える音。


いい匂いが漂ってくる。


「目を覚ましたら、これを飲ませよう……」


リューイは、少女の顔をじっと見つめている。


「キュルル……」


「心配なのか?」


「キュゥゥ……」


リューイも、優しい子だ。


***


1時間ほど待っていると——


少女が、ゆっくりと目を開けた。


「ん……」


その瞳は、エメラルドグリーンだった。


髪と同じ色の、美しい瞳。


「目が覚めたか。大丈夫か?」


少女は、ゆっくりと俺を見つめる。


そして——


「……あなたは……?」


か細い声。


でも、美しい声だった。


まるで、鈴を転がすような——


「俺は、皇奏多。異世界から来た旅人だ。お前が倒れているのを見つけて、手当てしたんだ」


「手当て……?」


少女は、自分の体を見る。


傷が、全て消えている。


「傷が……治ってる……」


驚いた表情。


「回復薬を飲ませた。まだ体力は回復してないから、無理するな」


「……ありがとうございます」


少女は、小さく頭を下げる。


「礼なんていい。それより——大丈夫か? 動けるか?」


「はい……何とか……」


少女は、ゆっくりと起き上がろうとする。


でも——


「っ……」


ふらつく。


「無理するな」


俺が支える。


少女の体は、やはり軽い。


そして——温かい。


さっきまで冷たかった体温が、戻ってきている。


「スープを作った。飲むか?」


「……いただけますか?」


「ああ」


スープを器に注ぎ、少女に渡す。


少女は、ゆっくりとスープを飲む。


ゴクゴクゴク……


「……美味しい……」


「そうか。よかった」


少女は、スープを全部飲み干した。


「ありがとうございます……本当に……」


「気にするな」


***


少し元気になった少女は、俺に自己紹介をした。


「私は、アナスタシア。エルフ族の……元王女です」


「元王女……?」


「はい。私の国——【エルフィナ王国】は、3年前に滅びました」


アナスタシアの瞳が、悲しみに曇る。


「敵国【ダークランド帝国】の侵攻により……王都は陥落し……父も、母も、兄弟たちも……全員、殺されました」


その声は、震えていた。


「私だけが……生き残ってしまいました……」


「……」


俺は、何も言えなかった。


家族を全て失う——


その苦しみは、想像を絶する。


俺も、家族に見捨てられた。


でも、彼女は——家族を殺された。


もっと、もっと辛いはずだ。


「それから、私は一人で逃げ続けていました。帝国の追っ手から……でも、ついに捕まってしまって……」


アナスタシアは、自分の体を抱きしめる。


「拷問を受けました。何度も、何度も……でも、死なせてはくれませんでした。彼らは、私を見世物にして楽しんでいたんです……」


「……ひどい……」


「でも、昨夜——隙を見て逃げ出しました。追っ手と戦いながら、必死に……そして、力尽きて……倒れました」


だから、あんなに傷だらけだったのか。


「追っ手は……まだ近くにいるかもしれません。あなたも、危険です。だから——」


「逃げろ、と?」


「はい……私に関わると、あなたまで巻き込まれます……」


アナスタシアは、申し訳なさそうに言う。


でも——


「嫌だ」


「え……?」


「俺は、お前を見捨てない」


はっきりと言う。


「お前は、助けを必要としている。なら、俺が助ける。それだけだ」


「でも……」


「それに——」


俺は、アナスタシアの目をまっすぐ見る。


「俺も、家族に見捨てられた。だから、お前の気持ちが少し分かる。孤独で、辛くて、誰も信じられなくて——そんな気持ちが」


「……」


「だから、俺はお前を助けたい。一人にしたくない」


アナスタシアの瞳から、涙が溢れた。


「……どうして……あなたは、そんなに優しいんですか……?」


「優しい、なんてことはない。ただ——放っておけないだけだ」


アナスタシアは、泣きながら——


「ありがとうございます……ありがとうございます……!」


何度も、何度も、お礼を言った。


***


しばらくして、アナスタシアが落ち着いた頃——


「それで、これからどうする? 追っ手が来るかもしれないんだろ?」


「はい……おそらく、もうすぐ……」


その時——


遠くから、声が聞こえた。


「おい! あの女、この辺にいるはずだ! 探せ!」


「見つけたら、殺すぞ! 上の命令だ!」


複数の男の声。


「来た……!」


アナスタシアが、恐怖で震える。


「大丈夫だ。俺が守る」


「でも……相手は、帝国の精鋭部隊です……とても強い……」


「関係ない」


俺は、剣を抜く。


「キュルルル!」


リューイも、戦闘態勢に入る。


「お前は、ここに隠れてろ。絶対に、守ってやる」


「……はい」


アナスタシアは、岩の陰に隠れる。


俺は、岩の前に立つ。


そして——


草原の向こうから、男たちが現れた。


5人。


全員、黒い鎧を着ている。


手には、剣や槍。


そして——


頭上にウィンドウが表示される。


+++

【ダークランド帝国兵】×5

レベル:30~35

スキル:

・軍隊格闘術(ミリタリーコンバット)

・殺意(キリングインテント)

・鉄壁防御(アイアンディフェンス)

+++


レベル30以上——


今まで戦った中で、最も強い相手。


でも——


「関係ない」


俺は、剣を構える。


「こいつらを倒せば——アナスタシアを守れる」


帝国兵たちが、俺を見つける。


「おい、あそこに誰かいるぞ!」


「エルフの女を隠しているのか!?」


「殺せ! 邪魔者は全員殺せ!」


5人が、一斉に襲いかかってくる。


「来い……!」


俺は——


迎え撃つ。


***


最初に接近してきたのは、槍を持った兵士。


「死ねぇ!」


槍が、俺の胸を貫こうとする。


でも——


【心眼】!


動きが、手に取るように分かる。


槍の軌道。速度。狙い——


全てが見える。


【疾風歩】!


風のように跳び、槍を回避。


そして——


「【流水剣】!」


一閃。


二閃。


三閃。


四閃。


五閃。


連続斬撃が、兵士の鎧を切り裂く。


ガギィィィン! ガギィィィン!


「っ硬い!」


【鉄壁防御】のスキルで、鎧が強化されている。


斬撃が、ほとんど通らない。


「ハハハ! 俺たちの鎧は、特殊合金製だ! お前の剣じゃ、傷一つつけられねぇよ!」


「そうか——なら」


【金剛拳】!


剣を捨て、拳を握る。


闘気を込めた拳を——


兵士の胸に叩き込む。


ドガァァァッ!!!


「がはっ!?」


鎧ごと、兵士の体が吹き飛ぶ。


5メートル——10メートル——


地面を転がり、動かなくなる。


「一人……!」


残り——4人。


「こいつ……やるな……!」


「まとめてかかれ!」


4人が、同時に襲いかかってくる。


前方から2人、左右から1人ずつ。


「また包囲か……!」


【究極時空間操作】!


「時間、減速(スロウ)!」


4人全員の時間を遅くする。


スローモーションになる敵たち。


その間に——


【疾風歩】で右の敵に接近。


【金剛拳】!


ドガァッ!


「ぐはっ!」


一人倒れる。


次——左の敵。


【烈風脚】!


回し蹴りが、兵士の頭を直撃。


ドゴォッ!


「ぎゃっ!」


二人目が倒れる。


残り——2人。


【スロウ】が切れる。


「くそっ! こいつ、強すぎる!」


「逃げるぞ!」


2人が、逃げようとする。


「逃がすか!」


【気功波】!


両手から、闘気の波動を放つ。


シュゴォォォッ! シュゴォォォッ!


2つの波が、逃げる兵士たちを捕らえる。


「うわあああっ!」「ぎゃああああっ!」


兵士たちが吹き飛び——


地面に叩きつけられ、動かなくなる。


***


「はぁ……はぁ……」


全員、倒した。


レベル30以上の敵を、5人同時に——


「やった……勝った……!」


ピロリン♪


+++

【レベルアップ!】

レベル25 → レベル30

+++


「レベル30……ついに……」


岩の陰から、アナスタシアが出てくる。


「すごい……あなた、本当に強いんですね……」


驚いた表情で、俺を見つめる。


「いや、そんなことないよ。ただ——お前を守りたかっただけだ」


「……ありがとうございます」


アナスタシアは、深々と頭を下げる。


「命の恩人です。この恩は、一生忘れません」


「そんな大げさな……」


「いえ。本当に……ありがとうございます」


アナスタシアの瞳から、また涙が溢れる。


でも、今度は——


嬉しそうな涙だった。


「それで——これから、どうする?」


「……私は、行く場所がありません。ずっと、逃げ続けていましたから……」


「なら——」


俺は、手を差し出す。


「俺と一緒に来ないか? 俺も、この世界のことをよく知らない。二人なら、何とかなるかもしれない」


「本当に……いいんですか?」


「ああ。それに——」


「キュルルル!」


リューイが、アナスタシアの膝に飛び乗る。


「キュゥゥ♪」


アナスタシアの顔を、舐める。


「まあ……可愛い……」


アナスタシアは、リューイを優しく抱きしめる。


「この子も、お前を受け入れてる。だから——」


「はい……喜んで」


アナスタシアは、俺の手を取る。


温かい手。


柔らかい手。


「これから、よろしくお願いします。奏多さん」


「ああ。よろしく、アナスタシア」


こうして——


俺たちの旅が、本格的に始まった。

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