A-01・3
「ったくマジでどうなってんだよ」
がら、と。電車の連結部分の扉を開ける重たい音がして、私達三人は同時にそちらの方向を見た。米津さんと凪咲ちゃんがさっき来た四号車の方からではなく、六号車の方から来た。
入ってきたのは凪咲ちゃんと同じくらいの年の若い少年だった。明るい茶髪で、ブレザーの制服をややだらしなく着崩している。今までの陰キャ人生ではあんまり付き合ってこなかったタイプの子だなあ、と思った。
「なんだ、人いるじゃん。なあ、ここってどの辺走ってるか、あんたたち知らない? 俺天塚駅行の急行に乗ってたんだけどさあ、寝過ごしちゃったみたいで」
だるそうに話しかけてくる様子は、お世辞にも礼儀正しいとは言えない。今までの陰キャ人生ではあんまり付き合ってこなかったタイプの子だなあ、と思った。
「なんですか、いきなり……」
馴れ馴れしい態度に眉を吊り上げた凪咲ちゃんが、私達より一歩前に立つ。「私はともかく、明らかに年長だってわかる二人もいるのに、タメ口とか。失礼じゃないですか?」
「なにそれ。あんたそういうの気にするタイプの人? 絶対運動部だろ」
つかさあ、と少年が面倒くさそうにがりがりと頭を掻く。「今この状況でそんなのどうでもよくね? 聞いたことに答えてほしいんだけど」
「……その感じだと、君もただ寝過ごしちゃっただけだとは考えてないっぽいね」
思わず思ったことが口からこぼれてしまった。
少年が片眉を上げて「は?」とこちらを見る。「なんだよ、あんた。あんたは何か知ってるのか」
横柄な態度になんだかわたしも少し腹が立ってきた。本来ならばかかわり合いになりたくない……ならないタイプの子だったとしても、今はどうしてもこの電車から降りたかった。そのためには情報がなければならない。
「私も特に何も知らないよ。でも、どう考えてもここはおかしいから、ここに残された人たちの話を聞きたいって三人で言ってたところだったの。ずっと景色も変わらないし、スマホは動かないし。少なくとも普通の電子じゃないでしょ?」
「……それは俺も思ってたけど。このまま乗ってたら車庫とかに連れていかれる……という感じじゃないってことは薄々」
どこか気まずさと不安を顔に滲ませ、少年が窓の外を見る。電車は時折揺れるくらいで、やはり何も変わらない。
「私は羽田舞香っていいます。大学生です。普通に帰ろうとして、席で寝ちゃってたら、なぜかこんなところに皆と取り残されてました。……それで、君は?」
「……小谷圭佑。夜針高校二年」
「小谷くんか」
「夜針高校?」私が彼によろしく、というより先に――凪咲ちゃんが驚いたように、どこか素っ頓狂にも聞こえる声を上げた。「県内でも指折りの進学校じゃないですか。あんな優秀な学校にも、あなたみたいな人っているんですね」
「はあ?」もはや喧嘩腰になってしまっている凪咲ちゃんの言葉で、少年――小谷くんが目を眇めた。「そう言うお前は誰だよ。さっきからやけに突っかかってくるけどさ」
「わたしは三ツ山凪咲。鍵北女子の一年です」
「一年かよ。年上に説教してるのお前じゃん」
「あなたが年配の人と大学生の人にタメ口で偉そうにしてるからでしょう!」
「はあ? めんどくさっ」
「まあまあ、いいのよぉ、凪咲ちゃん」見かねたのか、やり取りを黙って見守っていた米津さんが二人を取りなした。「男の子なんだし元気があっていいじゃない。わたしも気にしていないわ」
「でも、米津さん……」
「小谷くんくんも電車の中で寝過ごしてしまってここにいるのよね。電車のそちら側には他に乗客の方はいたかしら」
「……確か、二人くらい見たような気がするけど」
聞くに、彼は九号車で目覚めたらしい。
私と同じように、同じ車両に一人も人がいなかったから、半ば焦って周りを見渡したそうだ。すると十号車に一人、八号車に一人の乗客がいるようだとわかった。
どうなっているのか話しかけようとしたが、二人とも眠っているように見えたので、とりあえずは自分のいた九号車から、隣の十号車に移動したそうだ。十号車にはやはり乗客は一人しかおらず、眠っていた。そして九号車に戻り、さらに八号車、七号車、六号車、五号車と移動してきたのだそうだ。
八号車と十号車以外に、ここに来るまでに乗客は見当たらなかったと。
「まあ、焦ってたし、ちゃんと見たわけじゃないけどな。少なくとも座席に座ってたのはそいつらだけだぜ」
「それでほかの二人は眠っていたってことなんだね」
それはさすがに話しかけにいきにくいだろう。私でも、得体の知れないことが起こっていて不安でも、眠っている人を起こしてまで事情を聞くのは躊躇う。「なんだよこいつ」と不審に思われる方が怖いと考えてしまうのだ。
「十号車の隣には運転士さんのいる場所があると思うんだけど、それは見た? 一号車の方にある車掌室には車掌さんはいなかったらしいんだけど……」
「いなかったんじゃね。多分。気配とかなさそうだったし」
「そっか……」
私はスマホを見た。やはり十七時二十五分のままだ。
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