第2話 復讐の決意
目を覚ますと、そこは……見知らぬ豪華な部屋が広がっていた。
絢爛たる天井には金色の装飾が施され、壁は黒い大理石で覆われ、淡い紫色のランプが妖しく揺らめいている。
空気は重く、かすかに硫黄の匂いが混じり、まるで異界に迷い込んだような感覚だ。
俺の体は、真っ黒な椅子に手足を拘束された状態で固定されていた。
冷たい金属の感触が肌に食い込み、口には何かの布か革のようなものが詰め込まれ、声が出せない。
息苦しくて、肺が圧迫されるようだ。
少しずつ意識が覚醒していく。
頭がぼんやりと痛み、あの出来事がフラッシュバックする。
あのダンジョン、魔王の出現、勇者パーティーの裏切り……そして、俺の惨めな叫び。
俺は生きているのか? それともこれは夢か? パニックが込み上げ、思わず暴れようとした。
「ン〜!! ンンッ!!」と喉から絞り出すようなうめき声が漏れるが、椅子はびくともしない。
拘束具は魔法で強化されているのか、まるで岩のように固い。
汗が額を伝い、心臓が激しく鼓動する。
恐怖が全身を駆け巡り、指先まで震えが止まらない。
すると、部屋の奥に視線を移すと、そこにいた。
あの魔王――アスタロス。
黒い玉座のような椅子に優雅に腰掛け、長い銀髪を指で遊ばせながら、俺を観察している。
赤い瞳が妖しく輝き、圧倒的な美しさが逆に恐怖を煽る。
全身に悪寒が走り、息が詰まる。
連れ去られたのか?
周りを見渡すが、部屋には魔王以外誰もいない。
広大な空間に、俺と魔王だけ。
それでも逃げ場なんてない。
魔王がゆっくり立ち上がり、こちらに近づいてくる。
足音が静かに響き、黒いドレスが優雅に揺れる。
「なんじゃなんじゃ、騒がしいの〜。騒いだところで助けなんてこんぞ」と、遊び心たっぷりの声で言う。
声は甘く、まるで歌うように軽やかだ。
でも、その裏に潜む冷徹さが、俺の背筋を凍らせる。
殺される……!? 頭の中で警鐘が鳴る。
いや、殺すだけなら、ダンジョンでとっくにやっていたはずだ。
そうだ、最後に言われた言葉を思い出す。
「お前を私の僕にしてやろう」
――あれは本気だったのか?
心臓が早鐘のように鳴り、汗が止まらない。
魔王は俺のすぐそばまで来て、優しい仕草で口の拘束具を外す。
指先が頰に触れ、冷たく滑らかな感触が残る。
「ぷはっ!! ……はぁっ……はぁ……」
ようやく息ができたが、空気が何だか濁っている。
肺に重いものが入り込むような、息苦しさを感じる。
俺は必死に息を整えながら、魔王を睨みつける。
でも、声は震えて出ない。
魔王は楽しげに微笑む。
「なかなかエロい声をだすのぉ〜。さて、まずは改めて挨拶とするかの。私の名前は……いや、儂の名前はレスト=アスタロスじゃ。よろしくの。お主、名前は?」
震える口で、ようやく絞り出す。
「アラン……フィール」
「アラン・フィール……。そうかそうか、いい名前じゃな。さてと、お主には二つの道がある。ここで儂に殺されるか、儂の僕になるか。さて、どうする?」
魔王の赤い瞳が俺を射抜く。
悪魔らしい、悪戯っぽい笑みを浮かべて。
俺の心は混乱の渦だ。
殺されるか、奴隷になるか……そんな選択なんてない。
俺は目を閉じ、震える声で答えた。
「……殺して……ください」
懇願するように。
魔王の僕として生きていくなんて、絶対に嫌だ。
プライドが、努力してきた俺の人生が、そんな屈辱を許さない。
すると、魔王は突然爆笑し始める。
「あははははははwww お主、ええのぉwww その真っ直ぐさ、やはり気に入ったwww」
部屋に響く笑い声が、俺の耳を刺す。
笑いが収まると、魔王は至近距離に顔を近づけてくる。
息がかかるほど近く、意外にも甘い花のような良い匂いがした。
俺の心臓が止まりそうになる。
「儂は悪魔じゃぞ? 人間の望みを聞くのは神の仕事じゃ。残念ながらお主の望みは叶わない」
そう言われ、俺は絶望の顔を浮かべる。
目が潤み、力が抜ける。
すると、魔王は何故か頰を赤く染めながら、「その表情は興奮するのぉ〜//」と呟く。
「……殺して……くれないんですか?」
「残念ながらの」
全身がまた震え始める。
僕だと……?
そんなの……そんなの……。
魔王は満足げに頷き、声を低くする。
「さて、そろそろ本題に入るとするかの。お主はこれから儂の僕として生きてもらう。そのための主従契約を結ぶ。これにより、儂の命令に絶対に従うことになるが……まぁ、そんなに絶望せんでもええ。お主は人間から魔人へと変わり、永劫、儂の従順な僕となるだけじゃ。死からの脱却に加えて、力を手に入れられるのじゃ。感謝こそあれどそんな顔をされる覚えはないのじゃが……。あぁ……// そんな顔しないでおくれ……// ……それに……復讐したいじゃろ? あの勇者どもに」
その言葉で、一気に記憶が蘇る。
あの勇者パーティー――レオン、エレナ、ガルド、リリア、シオン。
憧れていたはずの英雄たちに、見捨てられ、生贄にされた屈辱。
俺の惨めな叫び、失禁した無様な姿。
恨みが胸に込み上げ、熱いものがこみ上げる。
目が熱くなり、拳が自然と握り締められる。あいつらを……許せない。殺してやりたい。
俺の努力を踏みにじったあいつらに、復讐したい。
どうせここで争ったところで、どうにもならない。
魔王の力は圧倒的だ。
それなら、この現実を受け入れ、あの勇者どもに復讐するために……俺は……悪魔になる。
覚悟が決まる。
俺の目つきが変わったのを、魔王は察したようだ。
「覚悟はできたようじゃの。それじゃあ、契約をするとするかの」
椅子の拘束具が、魔王の指先の動きで外れる。
カチッという音が響き、体が自由になる。
俺は立ち上がり、膝がまだ震えるが、魔王に向き合う。
魔王は優雅に手を差し伸べる。
「この手を取れ。取らなければまぁ……無理やり契約を結ぶことになる。大人しく儂の言うことを聞くといい」
俺は迷わず、その手を握った。
冷たく、しかし力強い感触。
次の瞬間、頭に強烈な痛みが走る。
まるで脳みそを針で刺されるような、激痛。
「イッ……!!」
俺は悲鳴を上げ、膝をつく。
「少し我慢せい。男の子じゃろ」
魔王の声が、優しく聞こえる。
痛みが徐々に引いていく。
ゆっくりと目を開ける。
視界がクリアになり、体が……違う。
今までにはないほど軽い。
筋肉が弾むように、魔力が体中を巡る。
指先から火が自然と湧き上がり、消える。
「……これで……俺は……」
「あぁ、魔人となった。いわゆる魔族と人間のハーフというやつだ。ちなみに魔王である儂も人間と魔族の子供だから、同じく魔人なのじゃ。さて、ここからは色々と座学の時間とするかの」
魔王は部屋の棚から、古びた本を取り出す。
革張りの表紙は埃っぽく、ページは黄ばんでおり、軽く100年以上前のものだろう。
「人間と魔族、もし戦争をしたのならどっちが勝つと思う?」
「……そりゃ……魔族じゃないですか」
俺は素直に答える。
「正解。では、人間と魔族の違いはなんじゃと思う?」
「……魔族は……不老だったり、不死だったり、生まれ持った時点での能力が高い……みたいな?」
「半分正解かの。もう一つ、決定的な違いがある。それは人間は生のエネルギーから魔力を作り、魔族は死のエネルギーから魔力を作るからじゃ。つまり、人間は自分の精神力や生命力を犠牲にするのに対し、魔族は言ってしまえば他力で力を発揮しているからじゃ。そりゃ、他力の方が強いのは明々白々じゃろ?」
俺は頷く。
なるほど……それで魔族は強いのか。
俺の体に流れる新しい力が、その理屈を体現しているようだ。
魔王は本を閉じ、満足げに微笑む。
「お主はこれから、儂の力の一部を分け与えられた魔人として、成長する。まずは基本を学べ。魔力の制御、戦闘術……そして、復讐の方法じゃ」
復讐の言葉に、俺の心が燃える。
あの勇者どもを、俺の力で倒す。
惨めな俺を見下したあいつらに、報いを与える。
魔王の僕になった代償は大きいが、この力でなら……可能だ。
魔王は俺の肩に手を置き、囁く。
「まずは休め。明日から、本格的に始まるぞ。アラン・フィール……儂の忠実なる僕よ」
部屋の扉が開き、暗い廊下が広がる。
俺は頷き、歩き出す。
新たな人生――いや、魔人の人生が、始まった。
恨みを胸に、俺は前を向く。
あいつらを、絶対に許さない。
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魔王の契約者〜勇者パーティーの生贄戦法にて死を覚悟したCランカーは魔王と契約し復讐を決意する〜 田中又雄 @tanakamatao01
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