魔王の契約者〜勇者パーティーの生贄戦法にて死を覚悟したCランカーは魔王と契約し復讐を決意する〜
田中又雄
第1話 終わりと始まり
この世界、エルドリア大陸は、神々が与えた「ギフト」と呼ばれる力によって支えられていた。
ギフトとは、生まれながらに与えられる特殊能力のことで、戦闘向きのものから生産向きのものまで多岐にわたる。
冒険者たちはこれを活かし、ギルドに登録してランクを上げていく。
ランクはFからSまであり、Cランクは中堅、Aランク以上はエリートとされる。
ダンジョンは大陸各地に点在し、魔物が生息する迷宮で、宝物や経験値を求めて攻略される。
だが、近年、魔王の影が忍び寄り、世界を脅かしていた。
魔王アスタロス――伝説の存在。
数百年ぶりに復活したと噂されていたが、表舞台に姿を現すことはなく、暗躍していた。
対抗できるのは、100年に1人生まれると呼ばれていた勇者だけだとされていた。
勇者は神託により選ばれ、特別なギフトを持って生まれる。
そして、現在の勇者パーティーは、ここ数百年でも最強クラスで世界を救う希望として崇められていた。
彼らの偉業は枚挙にいとまがない。
東大陸のドラゴン谷を制圧し、古代の呪いを解いた。
南海の海底ダンジョンを攻略し、失われた神器を回収したり、魔王軍の前線基地を壊滅させ、数え切れないほどの民を救った。
彼らは「不敗の五人」と呼ばれ、冒険者たちの憧れの的だ。
パーティーメンバーは以下の通り。
• 勇者レオン:リーダー。
金髪のハンサムな青年で、ギフトは「聖剣の祝福」。どんな武器も神器級に強化し、無敵の剣術を振るう。性格は明るく正義感が強いが、冷徹な判断を下す一面もある。
• 大魔導士エレナ:世界最強の魔法使いと称される美女。黒髪のクールビューティーで、ギフトは「無限魔力」。膨大な魔力を操り、広範囲の破壊魔法を得意とする。冷静沈着だが、内面は脆い。
• 戦士ガルド:巨漢の男。ギフトは「鉄壁の守護」。盾を専門に、どんな攻撃も耐えるタンク役。豪快で酒好き。
• 僧侶リリア:可憐な少女。ギフトは「癒しの光」。即時回復やバフ魔法を操るヒーラー。優しくてパーティーの癒し系だが、戦闘では勇敢。
• アーチャー・シオン:エルフの青年。
ギフトは「鷹の眼」。
遠距離からの精密射撃が得意で、偵察役も兼ねる。寡黙だが、忠実であった。
そんな彼らに憧れて、主人公も冒険者をしていた。
◇
俺の生い立ちは、惨めで平凡そのものだった。
辺鄙な田舎の村で生まれ、両親は貧しい農民。
幼い頃から、村の他の子供たちのように強いギフトを期待していたが、覚醒儀式で与えられたのは「基本魔法強化」という、ありふれた能力。
火、水、風、土の基本魔法を少し強く使えるだけ。
それも、生まれた瞬間に既に才能の限界が近く、物心ついたところに冒険者を目指そうとしたものの、村の賢者からは「努力してもBランクがせいぜい。お前は一生、凡人だ」と冷たく宣告された。
あの言葉が、俺の心に棘のように刺さった。
それでも諦めなかったが、村では嘲笑われ、友達もできなかった。
そんな村が嫌で15歳で家を飛び出し、冒険者の街にやってきた。
最初は路地裏で寝泊まりし、冒険者ではなく、ギルドの雑用で食いつなぐ日々。
誰も俺を認めてくれない。
才能がないと、努力なんて無駄だって言われ続けた。
それでも、俺は諦めなかった。
性格は内気で、人前で話すのが苦手。
少しお人好しで、誰かの役に立ちたいと思うけど、自信のなさからいつも後ろに下がってしまう。
でも、心の奥底では燃えるような野心がある。
強くなって、見返してやりたい。
毎日、歯を食いしばって努力した。
俺の一日は、いつも孤独で過酷だ。
朝5時に起き、街外れの森へ。
誰も来ない場所で、魔法の練習を始める。
火球を何十回も撃ち、指先が焼けるような痛みを堪える。
風魔法で木の葉を操り、精密制御を鍛える。水で渦を作り、土で壁を築く。
汗で服がびしょ濡れになり、息が切れるまで繰り返す。
午前中はギルドで雑用――依頼書の整理、武器の磨き、時には低ランクのパーティーの荷物持ち。
昼は安いパンと水で済ませ、午後はまた森で練習。
夕方には街の図書館で魔法書を読み漁るけど、頭が悪い俺には難しくて、頭を抱えることばかり。
夜は安宿に戻り、酒場で勇者たちの噂を耳にしながら、独りで酒を飲む。
友達がいないから、独り言で自分を励ます。
「今日もがんばった。いつか、絶対に……」
体がボロボロでも、俺はそんな生活を続けた。
努力が俺の唯一の武器だと思っていた。
そんなある時わギルドのイベントとして、勇者パーティーによる「同行者抽選」を開催されることを知った。
倍率は万単位で、当選者は勇者パーティーと一緒にダンジョンを攻略できるというもの。
それは冒険者として一度は味わってみたい、プレミアな経験であり、冒険者としてもの箔がつく。
多くの若者が夢見て応募していた。
そんな中、俺――アラン・フィールも例外ではなく、既に10回以上応募しており、今回も応募するのであった。
奇跡を信じて、応募用紙に名前を書いた。
どうせ落ちるとは思っていたが、それでも祈りながら日々を送っていた。
それから数日後、俺宛てに一通の手紙が届く。
それは…当選通知だった。
届いた時は、信じられなかった。
倍率1万倍だってのに…俺みたいなさえない冒険者が当たるなんて…。
俺は興奮で震えた。
勇者パーティーの近くで、彼らの戦いを見られるなんて。
きっと、何か学べるはずだ。
ここから俺の人生が変わるかも知れない。
そんな予感すらあった。
それからは、その日に向けて、より一層の練習に力を入れた。
少しでもいい姿を見せられたらと思い、鍛錬を続けた。
それと、内気な俺は、鏡の前で何度も挨拶を練習した。
「よろしくお願いします」って、声が震えないように。
ちなみに行くダンジョンはB級の「影の迷宮」。
森の奥深くにあり、魔物はゴブリンやオーク、時にはアンデッドが出る。
S級すらこなす勇者パーティーにとっては朝飯前なダンジョンであったが、現時点でC級最下層の俺にとって、B級は完全に未知の領域だった。
そして数日後…。
◇
集合場所のギルド前で、俺は緊張しながら待っていた。
手が汗ばみ、足が震える。
すると、やがて、彼らが現れた。
レオン様が笑顔で手を振る。
「よう、君が当選者のアランくんだね?今日はよろしくね。安全第一で楽しもう」
すると、エレナ様は冷たい視線を投げてくる。
「全く…ギルドの頼みだから仕方ないけど…。せめて将来有望な冒険者を同行させたいものだわ。あなた、余計な足手まといにならないでね」と言われる。
思わず苦笑いを浮かべていると、ガルド様が肩を叩いてくる。
「ははは、ビビるなよ小僧! 俺が守ってやるから安心しろ!」
リリア様が優しく微笑む。
「エレナさんは誰にでもあんな感じなので気にしないでくださいねー。それにみんな強いから安心してダンジョンを楽しみましょうね〜」
シオン様は無言で頷くだけだった。
俺は感激した。
こんな俺が、あの勇者パーティーと一緒に……。
練習も虚しく、内気な俺は、ただ頷くしかできなかったけど、心の中で叫んでいた。
とりあえず、絶対に邪魔にならないようにしよう、と。
荷物を背負い、黙々とついていくに。
ダンジョンに入ると、予想通り楽勝だった。レオン様が剣を振るうと、魔物が一掃される。エレナ様の魔法で道が開け、ガルド様が盾で守り、リリア様が回復と後方支援をし、シオン様が遠くからモンスターを射抜く。
俺は後ろで小さな火魔法を撃つだけ。
それもモンスターにはダメージが入っていないようだった。
でも、まるで自分もパーティーの1人になった気分で嬉しかった。
それに、B級もいうこともあり、経験値や宝箱がが集まった。
宝箱から出たポーションや宝石の分け前ももらえた。
まさに最高の気分だった。
俺の努力が、ようやく報われ始めたのかと思った。
そして、最深部でボス、影のゴーレムをあっさり倒した。
それからみんなでハイタッチ。
出口に向かう途中、俺は思った。
これが頂なのだと。
いつから自分もこんな風に…!
だが、そこに異変が起きた。
空気が重くなり、空間が歪む。
全員が金縛りにあったように完全に動きを止める。
そして、目の前に現れたのは、黒いドレスを纏った美女。
長い銀髪、赤い瞳。
圧倒的な美しさと、オーラ。
もちろん、みたことなんてない。
話に聞いただけなのに、それが魔王アスタロス本人であることをすぐに悟るほどの圧倒的な存在感だった。
「ふふ、お主らが勇者か。…けど、期待外れもいいところじゃな…。ただの魔力で体が動かなくなるなんて…の」
全身から汗という汗が吹き出す。
今すぐ誰かに殺してほしいと思うほど、耐えきれない空気感だった。
そんな中でも、レオン様だけが動き、なんとか魔王に向けて剣を構えるが、手が震えている。エレナ様の顔は完全に青ざめていた。
「こ、こんなところで……魔王が……なんで……てか…あんなの勝てるわけ……」
先ほどまで頼り甲斐しかなかった勇者パーティーは今ではただのFランクパーティーにしか見えなくなってきた。
空気が重く、もう息ができない。
みんな、死を覚悟した顔だ。
俺の心臓が激しく鳴り、膝がガクガクする。
そんな中、エレナ様が小さな声で呟く。
「……私の挑発のスキルを使えば……ここから転移するだけの時間は稼げると思う……」
挑発のスキル?
それは、敵の注意を自分に引きつける魔法。
確かに一瞬気を引くだけならできるかもしれない。
けど…それはつまり、誰か1人を犠牲するということ。
誰が一体…。
すると、パーティーメンバー全員が、俺を見た。
冷たい視線。
まるで、捨て駒を見るように。
「え……?」
嘘だろ…?嘘だよな?いや、嘘だろ?な?な?な?な?
レオン様が苦しげに言う。
「アランくん……すまない」
ガルド様が目を逸らす。
「仕方ねえよな……」
リリア様が涙目で。
「ごめんなさい……」
シオン様は無言で下を見る。
すると、エレナ様の震える手が、俺に向けられる。
「挑発の呪文……発動」
次の瞬間、魔王の視線が俺に釘付けになる。
先ほどの圧とは比べ物にならないほどの、全身を刃物で刺されるような感覚が襲う。
気絶することすら許されない地獄の空間の中、勇者たちは転移魔法を唱え、そのまま姿を消した。
光が渦を巻き、俺だけが取り残される。
「嘘……だろ……?」
現実が受け止められない。
そこでようやく限界を迎えて足が崩れ、尻餅をつく。
股間が温かくなり、失禁した。
臭いが広がり、恥ずかしさなんて込み上げない。
それから涙が止まらず、鼻水が垂れ、顔がぐちゃぐちゃになる。
体が震え、声が上ずる。
俺は惨めに、地面を這うようにしながら叫んだ。
今まで抑えていた感情が、醜く爆発した。
努力家で真面目な俺が、こんな裏切りに遭うなんて。
声は嗚咽混じりで、情けなく途切れる。
「く、くそぉ……! ゆ、勇者どもぉ……! う、裏切り者ぃ……! し、死ねよぉ……! て、てめえら全員、地獄に落ちろぉ……! ひっく……うわぁぁん……! お、お願いだから、戻ってきてよぉ……! 俺、俺だけ置いてくなんて……ひどいよぉ……!」
声が裏返り、唾が飛ぶ。
地面に額を擦りつけ、土を掴む指が血まみれになる。
惨めで、無様な姿。
誰も助けてくれない。
孤独が、俺を飲み込む。
なんとも安っぽく、短い走馬灯が脳内を駆け巡る。
なんと意味のない人生か…。
これまでの努力も、これからの未来も何もかも…!!
そんなことを気にせず、スキップしながら魔王がゆっくり近づいてくる。
美しい顔が、俺の前で微笑む。
「なかなかいい声で泣くな、貴様。気に入ったぞ。お前を私の僕にしてやろう」
「ひっ……! い、いやぁ……!」
そうして、俺は魔王に拉致されるのであった。
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