第3話 美少女(無表情)とのディナー
レアルが通路でしばらく待っていると、アリアが部屋から現れた。紺のジーンズにオレンジ色のセーター。革のブーツを履いている。レアルは顎に手を当てると、アリアの恰好を観察した上で「ずいぶんと古風なセンスだ」と評価した。
「それはどうも」とアリア。
二人は一緒に移動式エレベーターに乗り込むと、食堂へ向かった。移動式エレベーターの仕組みは先ほどレアルの部屋が動いた仕組みとほとんど変わらない。一分も経たず、食堂のあるフロアに到着した。
食堂の天井もまた、アリアのいる居住区と同じようにガラス張りになっており、外の景色を覗くことができた。形状はちょうどドーム状である。夕暮れで空が朱に染まり、日差しが食堂に差し込んでいた。
二人は適当なテーブルに着いた。丸い金属製のテーブルで、表面が夕暮れの色を反射していた。
「昨日はもっとおいしかった」とか「もっと良い場所があれば」なんて雑談か、はたまた願望のようなものが聴こえてきた。
しばらくして二人のテーブルにはそれぞれの夕食が機械によって並べられた。
ブロック状の固形食品や、ペースト食品を中心に、さまざまな形と色合いの食べ物がそれぞれ、区切られた四角いプレートに乗せられている。プレートの横に置かれたプラスチックのカップには、ジュースが入っている。
どれも機械によって栄養価、味、色彩などが調整されている。
用意されたナイフとフォーク。二人はディナーを始める。
しばらく無言が続いた。レアルは居心地の悪さを感じた。
「そうえいば」レアルは口を開く。「どうしてドローンを倒せたんだ?」
あのゲームで、アリアはドローンを倒すという不可能をやってみせた。しかも絶対に回避すべき屋外から。それこそがレアルの敗因でもあった。
「それってつまり、わたしがどうしてあなたに勝てたのかってことを聞きたいわけ?」
「そういうニュアンスもあるかもしれない」
「いいよ。教えてあげる。――そもそも誰がいつドローンと戦ってはならないなんて言った?」
「それは……だって、あのゲームの目的は最後のプレイヤーになるまで生き残ることだ。わざわざドローンを倒しても何も得るものはないし、どころか意味のない戦闘で大きなリスクに晒されることになる。ドローンと戦うなんてあまりにも不毛だ。しかもドローンの多い屋外での戦闘なんて、イカれてるとしか言いようがない」
大きなリスクの割に得るものはほとんどない。だから屋外での戦闘と、ドローンとの戦闘の二つはあのゲームの世界では絶対に避けるべき禁忌となっていた。
「確かに不毛に見える。けれどそうじゃない。誰も近づかなくなった屋外で、敵はドローンだけ。しかも幸いなことにドローンの動きは読みやすい。屋内でほかのプレイヤーと偶然鉢合わせるリスクを考えれば、むしろドローン以外の敵が見当たらない屋外にいた方が生存確率は高い」
「その上で――」
とアリアは前置きをして、
「一番の利点は、誰も屋外からほかのプレイヤーが自分を狙っているなんて思わないこと。つまり相手がどんなに強いプレイヤーだろうと不意を突くことができる」
アリアの言う通り、初めレアルは敵は屋内にいるものだと決めつけていた。
「けれどそれだけがあなたの敗因ではない。むしろ、あの時……あなただけは屋内に敵がいないとわかるや、すぐに屋外へ目を向けた。わたしが引き金を引いた時、狙った相手と目が合ったのはあなたが初めてよ。きっと、あなたが本気で勝とうとしていたら、わたしは殺されていた」
「俺が本気で勝ちにいかなかったとでも言いたげだ」
「ええ、死んだ目をしたヤツを殺すのはとても簡単だから」
「……つまりそれが俺が負けた理由か」
「使えるものを使っただけ。それに、自覚はあるのでしょう?」
テーブルの鏡面反射に映る自身の顔をレアルは見つめた。
レアルは確かにゲームでの『死』を望んでいた。戦おうとする意識と、『死』を望む意識、その狭間の中にあった。だからこそ、アリアの言葉を否定することはできなかった。
ともかく、レアルは目の前のこの少女に自身の心の内をすべて見抜かれているような気がして、あまり良い気分はしなかった。そんなレアルの内面を表すかのごとく、床がぐらりと揺れた。それに合わせてテーブルの上に乗ったプレートが振動し、ペースト状の液体がプルプルと揺れた。
アリアはテーブルの端を掴むと「最近は物騒ね。また地震」と言った。
揺れが収まったところで、レアルもいくらか落ち着いた。そこでようやく〈ミッション〉のことについて切り出そうと思った。レアルはそろそろ食べ終わりそうなアリアに向かって、「話がある」と告げた。
「それって、今から三階層まで降りようって話?」
「どうしてわかったんだ?」
レアルがそう訊くと、アリアは少し困ったように視線を俯かせる。
「……勘。さっきも言ったでしょ」
――勘で分かるものか?
「いいわ。一緒に行きましょう、あなたの冒険に付き合ってあげる」
レアルの疑問を払拭するように、アリアは声高にそう告げた。
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