第4話 命を懸けるゲームって燃えるじゃない?
二人はディナーを終えて、今度は円形のフロアに来ていた。壁にはびっしりとエレベーターが並んでおり、どれも五十階層――居住区のある階層よりもさらに下に向かうエレベーターである。
五十階層から六十階層に広がる居住区より下は、移動式エレベーターでは行くことのできない区画になっているため、このフロアのエレベーターを使わなくてはならないのだ。
「初めてだ、居住区の外に出るのは。いこの居住区から出たことは一度もない」
「この居住区の中で生活が完結するように作られているのだから、当たり前よ。こういう、何も不自由のない環境のことを表すのに最も適した言葉があるはず」
「ユートピア。ここはユートピアに似ている」レアルは答えた。
「ユートピアね。なるほど。確かに、この環境は確かに楽園(ユートピア)かもしれない。けれど楽園に閉じこもったままでは、何も得るものはない。何かを得たいなら、あるいは求める答えが欲しいのなら、冒険をしなくてはならない。――少なくともわたしはそう信じている」
今、二人のいる階層は五十五階層。エレベーターの扉の右上に表示されている数字は『50』――もうすぐ二人の正面の扉が開く。
「居住区よりも下はいったいどうなっているんだろう?」
そんな疑問を口にしてしまうほど、いざその時が来ると思うと、レアルは緊張が隠せない。三階層にいるであろう〈ミッション〉を送ってきた謎の人物の正体も分かるはずだ――。
ピーン――という音。エレベーターの扉が開く。
扉の向こう、エレベーターのかごは奥行きのある長方形だった。金属の柱で組み立てられており、床は金網が敷かれただけの簡素な造り。エレベーターのかごが上下する空間――昇降路の構造が露呈している。そのためだろう、下層からの突風がエレベーターの前に立つ二人を吹きつけた。
「行こう」
アリアはそう告げて、突風の吹き付けるエレベーターの中へと歩を進めた。
「待て」レアルは思わずそう言っていた。エレベーターのかごはあまりにも頼りない。不気味に見えた。昇降路の空洞の中で共鳴する音は、断末魔のようにさえ聞こえた。この先に足を踏み込めば、二度と帰ることはないのではないかという不安がレアルを襲った。
「誰だって未知の前では足がすくむもの。それを既知とするか未知のままにするかはあなた次第。さあ、選んで。――平和なユートピアか、それとも危険(スリル)か」
どう考えても前者を選んだほうが良い。レアルもそうと分かっている。それでもレアルは答えを求めていた。
「分かりやすい挑発だ。けど乗らせてもらうよ、その挑発とエレベーターに」
レアルは突風を切り裂くように走った。不安や、恐怖を忘れるように。そして飛び乗った。エレベーターのかごがグラリと揺れる。
「……次から気を付けて」
アリアはレアルには目もくれず、物怖じのない口調で言った。
「すまない。けどこんなに揺れるものか?」
「まあ、こんな造りだから」
アリアは安全柵を手の甲で叩く。コーンという重たい金属音が空洞に響いた。レアルは足元を見やる。金網の下は底の見えない暗い空間が広がっていた。
「三階層でいいんだよな」
「違うの?」
「いいや合ってる。……ただ気が進まないだけだ」
「そう」
アリアは三階層へのボタンを押して、扉を閉じた。エレベーターがゆっくり下降し始める。こんな造りだから風は肌を掠めるし、動き初めにはガタンと大きくかごがゆれた。
「なにするんだ! 俺が死んだらどうする?」
「けど命を懸けるゲームって燃えるじゃない」
「……なるほどな」もう引き返せないと悟ったレアルは、「俺たちに幸運を……」と祈りを捧げた。
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セカイの外はゲームだった。そして世界の過去は残酷だった。~TIME SKIP~ 白波空 @Yuino_Sora
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