第六話
昼休み、神藤さんと学食へ向かった。
同じテーブルにつくなんて、どうにも落ち着かない。
けれど「護衛だから当然」と言われてしまえば、断る理由もない。
「大盛りでお願いします」
迷いなく注文する彼を見て、僕は目を瞬いた。
華奢に見えるのに、そんなに食べるんだ――。
「体を使う仕事だからね。食べないと持たないんだ」
あくまで淡々とした調子。
運ばれてきた定食は、僕の倍はあるボリュームなのに、表情ひとつ変えない。
箸を取る動作まで綺麗だった。
姿勢も崩さず、音も立てず、一口ずつきちんと口へ運ぶ。
それなのに、白いご飯の山は見る間に低くなっていく。
見惚れていた。
豪快でもなく、気取ってもいないのに、妙に絵になる。
――そして、ふと目に留まったのは。
彼の傍らに置かれた一本の紙パック。
ピンク色のパッケージに大きないちご。
昔からある定番の「いちごみるく」。
「……それ、好きなんですか?」
つい口をついて出た。
だって、似合わない。
冷静で落ち着いた彼の雰囲気と、甘ったるいその飲み物。
「別に」
素っ気ない返事。
「じゃあ、なんで?」
そう食い下がると、彼は小さく笑った。
口元だけが、ほんの一瞬やわらかくなる。
「煙草みたいなもんだよ」
その言葉に、息が止まった。
煙草――。
ふざけて言っているようなのに、なぜか笑えなかった。
いちごみるくを口に運ぶ仕草は、妙にゆっくりで、どこか儀式めいている。
彼の瞳が、ほんの一瞬、遠い方角を見た気がした。
その表情には懐かしさと、微かな痛み。
まるで、そこに誰かの面影を見ているようで――胸がざわついた。
「……ダサいタバコですね」
冗談めかして言うと、彼はまた笑う。
けれど、あの笑顔はさっきよりもずっと優しかった。
周囲を見れば、女子学生たちが彼の笑顔に見惚れている。
頬を染め、ひそひそと囁き合う声。
――なんで、僕ががこんなに落ち着かないんだ。
胸の奥に、説明のつかないもやが渦を巻いた。
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