第二話
さっそく、神藤さんは僕の通学に同行してきた。
大学までは、石ノ宮の運転する車。
窓の外を流れる街並みをぼんやり眺めていると、すぐにT大学の正門が見えてくる。
車を降りると、朝の光がまぶしかった。
神藤さんは周囲に溶け込むよう、地味な色のジャケットを着ていたけれど――その下に銃を携えているのを僕は知っている。
ちらりと見えた黒い金属が、彼の静けさの奥に潜む鋭さを思わせた。
「ずいぶんと物騒だな」と、心の中で苦笑する。
けれど、何も知らない学生たちから見れば、彼はただの青年だ。
若くて、よく馴染む。
それが、かえって僕を落ち着かなくさせた。
「あ、円城寺くん」
講義室へ向かう途中、知らない女生徒が声をかけてきた。
よくあることだ。
彼女たちは僕の名前を知っていても、僕という人間は知らない。
その目には、僕ではなく“円城寺家”しか映っていない。
舐めるように見つめる視線が、肌の上を這うようで――苦手だった。
「あれ、その人誰?」
「ああ……友達」
「へぇ! はじめまして~! 間宮っていいます!」
“きみが誰?”と返したい衝動を、ぐっと飲み込む。
女生徒たちはすぐに神藤さんに目を奪われた。
無理もない。
彼は年若いのにどこか大人びていて、穏やかに笑うだけで空気が変わる。
その視線が彼に移るたびに、僕はほんの少し安堵した。
――彼は魔除けになるかもしれない。
そう思う自分に、わずかな可笑しさが滲む。
神藤さんは慣れたように微笑んで、彼女たちの興味を受け流していた。
やっぱり、モテるのだろう。
笑顔のつくり方まで、洗練されている。
「神藤さん、ああいうのよくあるんですか?」
「さあ……若い人たちに囲まれるのは、あまり慣れてなくて」
「でも、モテるでしょ?」
「うーん……どうだろう」
困ったように笑うその表情が、朝の光をやわらかく弾いた。
そんな顔を見たら、誰だって惹かれてしまう。
「というかその……そんなに堅くならないでください。疲れちゃうから」
「堅く?」
「うん。“私”とか、敬語とか、やめて。普通でいいですよ」
「……そう。わかった。じゃあ、改めてよろしく」
その瞬間、彼がふっと笑った。
それはほんの一瞬の仕草だったのに、胸の奥で何かが小さく鳴った。
――やっぱり、この人は危ない。
笑顔ひとつで、心の距離を測り損ねる。
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