1-7

誰かに建物の中へと引きずり込まれたかと思えば、視界いっぱいに広がる布と洋服の数々。

そのどれもが個性的で、色とりどりの空間に呆気に取られていた。


「ごめんねぇ、急に引き込んじゃって。」


先程より落ち着いた声を聞き、私は後ろを振り返る。

そこには、小さな動物の飾りを沢山つけたくせっ毛をフワフワと跳ねさせながら、私を深緑の瞳でジッと見つめてくる女性の姿があった。


「……あ、の…?」


あまりにも長く見つめてくるので、耐えきれずに声を絞り出す。

しかし、私の声が聞こえてないのか、その声をかき消すように「やっぱり!」と嬉々とした声を上げられる。


「アータ、キョウカによく似てるわ!」

「…え?」


キョウカの名前が出てきて思わず彼女の横にいるキョウカを見る。

すると、壁から顔だけ覗かせてるキョウカは、慌てたように首を横に振って、指を女性の方へ差した。

恐らく、「こっちを見ないで」ということなのだろう。

大人しく女性の方へ顔を向き直すと、キラキラと輝いた瞳を目が合った。


「アータ、オシャレとか興味ない?」

「おしゃれ…ですか?」

「そそ。服とか、アクセサリーとか!あ、アータ爪綺麗だから、ネイルしても良いわね…。」


段々と声量が小さくなりながら、私の手を取りジッと爪を見つめる。

爪なんて剥がされる時ぐらいしか見られないから、訳が分からず私は首を傾げてしまう。


「あ、あの…。お洋服でしたら、間に合ってます。」


「私にはこれがあるので」とパーカーを少し摘んでみせると、女性は一瞬だけ不思議そうな表情を浮かべる。

すると、「そっか」と納得するような声を零した彼女の顔は、優しい笑顔へと変わっていく。


「思い出の服なんだね。」


その言葉を言われた途端、自分の中で時間がゆっくりになった気がした。


「……はい。」


私はその一言で答えることしかできなかった。


いつからあったのか、いくつあったのか。

水色のパーカーとピンクのスカートは、私の幼少期から同じような組み合わせの服が多く保管されていた。

私が生まれて間もない頃、お母様が色んなお店を回って様々なサイズをかき集めたんだそう。


『子供はすぐ大きくなっちゃうからねぇ。これだけあっても、足りなくなっちゃうかもしれないわね。』


集めた服を畳の下に隠しながら、そう笑って話していたのをよく覚えている。


お母様を思い出せば急に寂しくなってしまい、服をつまんでいた手をそのままギュッと握った。


「じゃあさ、」


女性は柔らかい手つきで私の長い髪を触る。

それに反応し、私は少し俯かせていた顔を上げた。

だが次の瞬間、肩をガッと強く捕まれ、好奇心に満ちた瞳が私を捉える。


「髪の毛だけでもいいから!!こんな綺麗な髪してるのに何も飾らないの勿体ないって!!ね!!」

「あの」

「あ、知らない人に触られるのは嫌?」

「え、いやそんなこと」

「ウチ、メイ!!柏崎メイ!!はいこれで知ってる人!!じゃあもういいよね!!」

「えぇ…?」


私から困惑するような声が上がると、背中を押されて近くの椅子へと引きずられていく。

押されるまま大人しく椅子に座れば、髪を手で触られたらしく、くすぐったい感触が頭に伝わってきた。


「本当に綺麗な髪ねぇ。食べちゃいたい。」

「食べちゃダメで、すからね?」


食べたい発言に慌てて反論すると、「冗談よ〜」と言って笑われる。

その横でポツリと聞こえた「メイならやるな…」というキョウカの呟きは聞き逃さなかった。

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