1-6

あの後、キョウカの提案から、私は村を見て回ることになった。

ホープは研究というものの続きをしたいようで、あの建物で留守番だ。


整えられた道を歩いていると、隣でフワフワと浮くキョウカがのんびりとした声で話し出す。


「ここの道も実際は村の一部なんだけどな。あの建物が遠すぎて、いつまで経ってもそんな感じしないんだよなー。」


キョウカの話に耳を傾けながら歩いていれば、草木だらけだった視界が急に晴れ、太陽の光が直接目に差し込まれた。

開けた場所に出たと思えば、目の前には建物や畑、公園などがある、のどかな景色が広がっていた。

その光景に声を漏らすと、キョウカが私の顔を覗き込んでくる。


「想像してた村と違っただろ?」

「あ、いえ。村自体あまり知らなかったので、これが村なんだなぁって…。」

「あぁー、そっかぁ。」


苦笑を浮かべて「ごめんな」と謝ってきたキョウカに、慌てて大きく首を横に振る。

何故キョウカが謝るんだ。と問いかけてみれば、

「自分も昔分からなかったのに、当たり前のようにユキに物事を聞くのは違う。」

と答えられた。

その答えがイマイチ理解できなかった私は、首を傾げながら道を辿って歩き続ける。


「まぁ、村っていうのは、あの町より小さい集まりみたいなものだよ。

 大して町とは変わんなくて、買い物とか学校とか、住む場所を確保して各々生活するんだ。」

「町という集まりは、大きいん…ですか?」

「まぁそこそこってとこじゃないか?

 集落、村、町、市の順番で大きい集まりになるから、上から大体二番目だな。」


へぇ、と声を零せば、「まぁここで暮らしてく内に常識的なことは勝手に覚えてくよ」と笑ってキョウカが話す。

それに相槌を打つように笑みを返すと、ポツポツと人が見えてきた。

思わず足を止めると、「怖いか?」とからかうように声がかけられた。

それに対し、私は首を横に振って答える。


「…いえ、大丈夫です。」

「無理はしなくていいからな。駄目そうなら、また別の日に…」

「大丈夫です。」


キョウカの声を遮ってでも私は大丈夫だと伝えたくて、繰り返し強く同じ言葉を発した。

二回目で頷いたキョウカは、道案内するように私より一歩先を飛んで行く。

その後を続いて歩いてくと、突然男性の声が聞こえてきた。


「お嬢ちゃん、新入りかい?」


五十代ぐらいのガタイの良い男性だった。

思わず体を縮こませそうになるが、それでは何も変わらない、と自分に鞭を打ち込んで背筋を伸ばす。


「は、はい。初め、まして。」


今までで、一番言葉が途切れ途切れになった気がした。

自分の予想は当たっていたようで、男性はガハハっと大声を上げて笑うと私の背中に手を優しく添え、細長くて緑色の物を私に持たせる。

反射的に感謝を述べると、優しい声色の低い声が鼓膜を震わせる。


「んな緊張すんなって。おじさんが大きすぎてビビってんのか?」

「え、いや、そんなことはないっ!……です…。」

「まぁまぁ。これやるから、次会った時は目を合わせて話してくれよ?」


そう言われて、ようやく私は目を合わせられてないことに気がついた。

「すみません…」と謝罪を述べれば、男性はまた笑って「謝る必要はない」と返してくれた。


「悪いな、今忙しくてゆっくり喋れなくてな。まぁ、ゆっくりしていけよ。」


それだけ言えば、男性はさっさと別の場所へと向かっていった。

今までずっと離れた場所で私と男性のやり取りを眺めていたキョウカは、苦笑を浮かべながら私の方へと近づく。


「相変わらずだな…佐々木さんとこのおっさん…」

「佐々木さん、ですか?」

「さっきのおじさんだよ。佐々木トミオ。この村の農家だ。」


農家とは何か聞くと、私が今持ってるキュウリという野菜やお米というものを育てる職業のことらしい。

朝早くから重労働で、とても大変なお仕事なんだとキョウカは説明してくれた。


「凄いですね。そんな、人のために何かできるなんて。」

「仕事は誰かのためにやる事だからな。俺も、生きてた頃は居酒屋で働いてたよ。」


キョウカも生前は働いていたらしく、居酒屋での話をいくつか聞かせてくれる。

私も、誰かの役にたつことができるのだろうか。

誰かのために、お母様みたいに、


「ちょっとアータこっち来て!!」


キンっと思考を潰されるような高い声が響いたかと思えば、私は誰かに手を引っ張られて建物の中へと引きずり込まれた。

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