1-5

お互い軽い自己紹介を終えると、ホープはここの村のことについて教えてくれた。


ここは、私が出てきた町に面した山の奥にある、小さな村。

この村に住む人は、何かしらの事情があって、成り行きでここに住むようになった人がほとんどだという。

みんなそれぞれ助け合って、協力し合いながらここまで長いことやり繰りしてきた。とホープは話してくれた。


そんな話を聞いてから、私はずっと考えていたことがあった。


 私がそんな村に居続けるのは良くない。


あの町から離れようが、私が悪魔の子であることに変わりはない。

村の人達を思うのならば、迷惑をかけないようにここから離れるのが最善だろう。

ホープの話を聞きながらそんな事を考えた私は、彼が話し終わったタイミングで口を開いた。


「ありがとうございます。色々と教えてくだ、さっ…て。」


頭を下げながら感謝の言葉を述べると、ホープは明るい声色で「いいんだ」と返す。

その表情は柔らかくて、見ていて安心する笑顔だった。

こんなに優しい人を、私の事情に巻き込むわけにはいかない。

そう考えながら、私はベッドから降りて立ち上がる。


ホープの視線を感じながら、私は町中に置いてあった四角い箱の映像の真似事をして見せる。

足を揃え、手を体の前で添えて最後に笑みを作った。


「私はもう帰ります。すみません、こんなにしていただいて。」


ホープから発せられる短い声を流し聞きしながら、私は逃げるようにドアノブに手を伸ばす。

だが、掴もうとした手はドアノブを空振り、開けようとしていたドアは独りでに動いた。

下に行っていた目線を上へあげると、赤い瞳と目が合う。


「…ユキ、もう行っちゃうのか?」


キョウカの逃がさないと言いたげの目線と見つめ合うと、私はどう返していいか分からず、黙り込んでしまう。

すると、気まずそうな途切れ途切れの「あー…」という声が静寂を破った。


「深入りするつもりはなかったが、まぁ…なんだ。帰る場所とか、行く宛てとかはあるのか?」


ホープのその問いかけに、私は黙ったまま首を横に振った。

すると、正面にいたキョウカからため息が聞こえる。

もしかして、苛立たせてしまっただろうか。

そう不安に感じていると、突然首の後ろに腕を回され、グッとキョウカとの距離が縮められた。


「まぁそうでしょうね。悪魔の子を受け入れてくれる場所なんて、町の近くじゃここぐらいしかないだろうしな。」

「で、ですが、宛はなくても…」

「そう甘くはないぞ。悪魔の子だって腹は空くんだ。何回餓死しながら、このだだっ広い世界を彷徨う気だ?」


「そ、れ、に。」と、私に回してる方の手とは反対の手で人差し指を立てれば、彼女の声のリズムに合わせて横に振る。


「せっかく来たんだ。俺もユキとは色々話したいし、ちょっとここで疲れた体を癒してもいいんじゃないか?

 ここに住むかどうかは、その後決めればいいじゃねぇか。」


ダメだ。そんな事をしてしまえば、みんなに迷惑がかかる。

そう言葉を声に出す前に、キョウカからトドメを刺されるように遮られる。


「誰も迷惑だとか思ったりしねえって。」


心を読まれたように感じ、思わずキョウカの顔を見つめると、開こうとしていた口が閉じてしまう。


「わかるよ〜、俺だって最初はそうだった。

 ここにいたら、村の人達に危害が及ぶ。平和なこの村を、俺のせいで壊す訳には行かない。だから離れよう。


 ……ユキも、そう思ってんだろ?」


小さく首を傾げながらそう問いかけられ、私は素直に頷いた。

それを見れば、キョウカは「やっぱり」と歯を見せて笑う。


「安心しな。アイツらは、町の奴らに殺されるほど脆くねぇよ。」


その言葉を最後に私から離れたキョウカは、ホープの隣に並ぶ。

ベッドのすぐ前で片足に体重を傾かせると、腕を組みながら質問を投げかけてきた。


「で、ユキはこれからどうするんだ?」

「これ、から……」


私の中で、何かが動かされたような気がした。

この子が本当に、私の前代悪魔の子なのか確証はない。

それでも、その声に縋りたい私がいたのだ。


「ここに、いたい。」


耐えられずに零れ出した本音。

もう今更撤回することはできず、私は二人の顔を交互に見ては最後に力強く声を発する。


「……です!」


私を見る二人の目は、優しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る