1-4

「だーかーらー…!ユキがいるから静かにしてろって…!」


ユキとホープがいた部屋から飛び出した俺は、必死に声を抑えながら、今にも飛び出しそうな二人を宥める。

だが、その努力も虚しく、高い声を上げユキのいる部屋を指さしたのは、眉間にしわを寄せるリイカだった。


「だって!ユキちゃんがいるんでしょ!?避けなさいよそこ!!退けなさいってば!!」


今まで見たことがない程口調が荒く、暴力的になっているリイカを目の当たりにし、俺は思わず怯んでしまう。

そんなリイカとは対称的に、先日来たばかりのコノハさんは、かなり落ち着いた口調で喋り出す。


「まぁまぁ。見えないからと言って、そんな大きい声を出しちゃ喉が壊れちゃうわよ?」

「霊体だから壊れないでしょ。」

「あら、そうなの?便利なのねぇ。」


のんびりとした口調でリイカを宥めてくれるコノハさん。

声だけ聞けば落ち着いてるように感じるが、彼女の目は完全に血走っている。とても怖い。


今すぐ大声を出して止めてやりたいが、生憎ユキは俺の声が聞こえるため、それをするのはやめた方がいいだろう。

万が一彼女たちの名前を呼んでしまったら、ユキを巻き込み更に収拾がつかなくなるのが目に見える。

悪魔の子と関わった二人のことだ。ロクな別れ方なんてしていない。


心の中で必死にホープに助けを求めるが、あの様子だと、しばらくユキを離すことはないだろう。

つまり、完全ワンオペでコイツらを止めなければならない、ということ。


「頼むから一旦落ち着いてくれ…。暴走してるお前らをユキに会わせる訳にはいかねぇんだよ…!」


必死の思いで最小限まで声を小さくしながらそう伝えると、何とか二人は落ち着きを取り戻したようで、前に出かかっていた足を引っ込めた。

一旦ホッと胸を撫で下ろすと、明らかに不満そうな顔をするリイカと目が合う。


「別に会いに行ってもよくない?だってユキちゃんが見えてるのは、キョウカだけでしょ?

 私だって大人になったユキちゃん見てみたいのよ。アンタだけずるいでしょ。」

「お前らが何するかわかんねぇから会わせたくないんだよ、メンヘラサイコパス。」


反射的に言い返すと、リイカは元からでかい目を更に大きく見開き、「へぇ?」と低い声を出す。

一呼吸置いてから短く謝罪を述べると、少しは落ち着いてくれたのか、ため息をつきながら腕を組んでいた。


昔から、リイカはあぁなのだ。

気に入らないと強く圧をかけて、無言で謝罪を要求してくる。

流石、元お嬢様と言うところだろうか。


二人にバレないように小さくため息をつくと、コノハさんが不機嫌なリイカを引っ張り、この場を去って行ってくれた。

姿が見えなくなるまで二人を見守った俺は、またユキのいる部屋へ戻ろうと体を捻る。

すると、部屋の中からユキの声が聞こえてきた。


「帰ります。すみません、こんなにしていただいて。」


先程とは違う、焦りを感じさせる早口になった声。

何だか嫌な予感がし、俺は咄嗟にドアノブに手をかけた。

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