1-3
「推していい?」
「すみませんよく分からないです。」
キョウカの発言に食い気味に返答すると、二十分近くかけて「推す」という事を説明された。
アイドルだとか、俳優だとか、知らない単語が多く出てくるせいで、説明されているというのにあまり理解が追いつかない。
その間、男性はあまり声を発することはなく、ただ視線をこちらに送るばかりだった。
「…ということで推していいか?」
「許可とかいるん、ですかそれ。」
言葉が詰まらせながらも何とか会話を続けていると、急にキョウカと男性が扉の方へ顔を向ける。
あまりにも揃いすぎた行動に違和感を抱いた私は、何かあったのか聞いてみるが、二人は揃って「なんでもない」と返すだけ。
その後、キョウカは男性と短い仕草だけのやり取りをし、部屋を出て行ってしまった。
残されたのは、私と男性だけだ。
「…あー、取り敢えず点滴取るか。邪魔だろ?」
男性が指差したのは、私の右腕にくっついてる細い管。
私はすっかりその存在を忘れていて、思わず声を零してしまう。
男性に促されるままにベッドに深く座り直すと、彼の手際の良さであっという間に管が私の腕から離れていった。
最後に「痛かったか?」と聞かれたが、そこまで痛みを感じなかったので首を横に振って答えた。
「よかった。念の為に点滴をうってたが、その様子じゃ大丈夫そうだな。」
安心したような表情を浮かべた男性にお礼の言葉を伝えると、優しく微笑まれる。
キョウカとの対応の差に驚きながらも、こちらも笑みを浮かべて微笑み返した。
ベッドの近くにあった丸いイスを持ってきた男性は、それを私の傍まで持ってきて、腰をかける。
それにより、私より十センチほど高かった視線は、少しだけ近くなったように感じた。
「キョウカから、アンタが気持ち悪さを感じた前後の話は聞いてる。ここに来るまでに何か食べたりしたか?」
そう問いかけられると、私はキョウカと会う前の記憶を遡る。
食べたものといえば、あの綺麗な白いキノコぐらいだ。
「そう…ですね。白いキノコを食べ、ました。」
「となると、この山だと有り得るのはドクツルタケあたりか…。」
明らかに危なそうな名前が男性の口から出てきて、私は目を丸くさせながら瞬きを繰り返す。
もしかしたら、私はとんでもないのを食べてしまったのかもしれない。
死ぬことはないから大丈夫なんだろうが、不安な気持ちは拭えず、恐る恐る男性に問いかけてみる。
「だ、大丈夫なんでしょうか…?毒とか言って、ます…けど…。」
「いや、正直大丈夫ではないな。
今は一時的に症状が落ち着いてるが、それも症状のうちの一つだったはずだし、今は食べてから何時間経ってるか…。今から病院に行っても間に合うか…?」
ブツブツと小さな声であれだこれだと呟く男性に、どう声をかけようか迷ってると、先程まで部屋の外にいたキョウカが戻ってきて、壁から覗かせた顔に明るい笑みを浮かべながら声を大きく響かせる。
「だーいじょーぶだろ!悪魔の子って毒素とか分解するの早いし。
相当な量じゃなきゃ、半日以内には毒素なんて消えてるわ!」
「だぁーってろって…」
「心配性がよぉー。…な?ユキも何ともないだろ?」
やけに自信満々なキョウカと、そんな彼女に睨みをきかせながら頭を搔く男性。
私と同じ魂を持つキョウカがそう言うなら大丈夫なんだろうが、それでも不安なものは不安だ。
しかし、今は特になんともないのは事実なので、キョウカの言葉に同意するように頷く。
「ほれみろ。」
「お前はもう少し心配してやれ。子孫…?なんだろ?」
頭を搔くのを止めたと同時にため息をついた男性は、私に「体調に異変を感じたら、すぐに言うように」と強く言ってきた。
それに私が返事をすると、彼の顔の強ばりが、少しだけ解れたように見えた。
「…そうだ、まだ名前を名乗ってなかったな。
ホープだ。よろしくな、ユキ。」
男性は思い出したかのようにそう言うと、目を細めて笑みを浮かべながら、手をこちらに差し出す。
その手が何を示してるのか分からず、私がどう対処すればいいのか迷っていると、「握手」と小さく優しい声が聞こえてきた。
「村の奴らは妙に距離感が近いからな。こうやって、握手を求められることも少なくないし、今のうちに慣れといた方がいいぞ。」
そう言ったホープは私の手を優しく握り、ゆっくり上下に二度揺らした。
その間にキョウカはまた部屋の外へと向かう。
微かに聞こえるキョウカの声を片耳に入れながら、私は握手していた手を離した。
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