1-1

ドンドン。ドンドン。


鈍い音が、何度も何度も辺りに重く響く。

その音を出している本人は、木に囲まれた、冷たい灰色の四角い建物の扉の前にいた。

キョウカは肩まで伸びた黒い髪を揺らしながら、浮いている事を利用して何度も扉を蹴りつける。

それによって相当な物音を立てているのだが、腕の中で眠るユキは起きる気配などなかった。


「おい!!ホープ!!おいコラ出て来いや!!」


その見た目の愛くるしさとは反面に、乱暴な言葉を使って「ホープ」という名前を叫ぶ。

すると、建物の中から微かに怒鳴るような声が聞こえ、勢いよく外と建物を隔てる扉が開かれた。


「おーまえマジでうるっせぇな。いい加減幽霊だからって好き勝手騒ぐのやめてくれよ。」


中から出てきたのは、暗い紫色の髪をした男性。

羽織っている深緑のコートを着直すと、キョウカが抱えるユキの存在に気がついた。

彼の表情が驚いたものに変わると、彼女はすかさず彼に説明をし始める。


「俺と話してたら急に気分が悪くなったみたいでな。悪いけどホープが診てくれ。」

「お前ここを病院って勘違いしてねぇか?研究所だって言ってんだろ。」


ユキをホープの前に突き出すと、彼女の髪がふわりと揺れる。

キョウカの態度を見てホープは愚痴を吐くように言うが、苦しそうに息をするユキを見下ろすと、長い息を吐き出した。


「……真ん中の一番奥の部屋だ。あそこなら、ある程度の物は揃ってる。」


ホープは親指を建物の奥の方向に指し、連れて行けとキョウカに視線で伝える。

それを汲み取ったキョウカは、段々と明るい表情になり、最後には満面の笑みを見せた。


「さーっすがホープ!そう言ってくれると思った!」


フワフワと浮かびながらも、跳ねるように奥へと移動すると、すかさず後ろから「あんま揺らすな!!」と怒鳴りつけられてしまう。

その声量に少し体を縮こませれば、今度は大人しくゆっくり移動したのだった。



部屋のベッドにユキを寝かしてやると、そのタイミングでホープが同じ部屋に入ってくる。


「二度と患者連れてくんなよ。」


すれ違い様に睨みをきかせながらそんな事を言われたが、キョウカはあまり気に留めてない様子だ。

彼女がユキをホープに任せて部屋を出ると、大きな菓子袋を持ったピンク髪の少女の姿を見つける。


「あ、リイカ。」


その少女の名前を口にすると、彼女は大きなスカートをふわりと舞わせながらキョウカの方を振り向いた。


「あれ、キョウカじゃん。もう帰ってきたの?」

「まーちょっとトラブルがあってな。」


目の中の花柄が特徴的なその少女は、キョウカの曖昧な返事を聞くと、「ふーん」と興味のなさそうな返事を返す。

そんな彼女にキョウカがお菓子について聞くと、二人で食べるんだと返答が返ってきた。


「昨日来たコノハさんと意気投合しちゃって。これからお茶をするんだ〜!」


リイカは、小さい身長によく似合う可愛らしい笑みを浮かべると、キョウカに軽く片手を振り別れを告げる。

数年前にやってきたリイカと、つい昨日現れたコノハ。

二人はキョウカと同じ死者であり、幽霊だ。


「んー…。コノハさんとまた話してみたかったけど、リイカが先客でいるし、また今度でいいかな。」


独り言をいつも喋る調子で口にすれば、キョウカは腕を組みながら、壁を貫通してどこかへ飛んで行った。

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