chapter1 山奥の村
外は心地良い風が吹いていた。
まだ暗い町中を歩いていくと、想定より早く町の隅にある家に辿り着く。
風が運んでくる、塀越しの花の香りが心地よく、軽く目を瞑ってそれを堪能する。
しかし、今の目的はそれではない。
それを思い出すと、私はすぐに目を開け、道に沿って森を目指す。
『ねぇ、ユキ。』
森だと思ってた場所は、小さな山だったようだ。
辺りを見渡すと、初めて見るものばかりで目を輝かせてしまう。
大きな角をもつ小さな生き物、大きく長い耳を持ったフワフワな生き物。
…あの白い蝶は、毎年飽きるほど見ている。
その場しのぎのご飯を探していると、以前捨てられた本の中にあった、「キノコ」というものを見つけた。
真っ白くて綺麗なキノコを地面からちぎると、それを登ってきた太陽に掲げて照らしてみる。
少しの間それを眺めた後、試しに一口齧ってみると、美味しい味が口の中に拡がった。
久しぶりの食事を堪能しながら、私は奥へと進んでいく。
『お願いがあるの。』
長い時間をかけ、少しずつキノコを食べながら山奥へ進んでいくと、人の声が微かに聞こえてきた。
「ったく、あのクソ野郎…。人使いが荒すぎんだろうがよ…。」
私は進めていた足を止めると、最後の一口を胃の中へ流し込む。
少し声は低かったが、女の子の声だ。
その場から動かずに、声のやって来る方向を探してると、突然その声の持ち主は姿を現した。
「……あ。」
「……ん?」
私とその子の声が重なったのは、目が合った直後のことだった。
それから二人はお互いに固まっていて、私はその時間の間に彼女の姿見をマジマジと眺める。
彼女の体は透けており、奥にある草木をぼんやりと映している。
これは、幽霊の名無しと同じ特徴だ。
…つまり、この人も幽霊ということになるのだろうか。
彼女は眉をしかめると、体を宙に浮かせながら、こちらに飛んで近づいてくる。
そして、あと数センチでぶつかる所で、彼女はピタリと動きを止めた。
「…見えてるのか?」
彼女の問いかけに、私は小さく頷いた。
「幽霊…です、よね?」と、使い慣れない口調で問いかけると、今度は彼女が頷く。
彼女が顔を離せば、私は警戒心からすぐに距離を取る。
その様子を見てた彼女は、歯を見せて苦笑して見せた。
「幽霊の魂の所持者ってところか。数こそ多くはないが、こんな偶然もあるもんなんだな。」
彼女は「幽霊」という魂の名前を口にしたが、私は意味がわかず、小さく首を傾げてしまう。
私は幽霊の魂は所持していないどころか、その魂を今まで全く聞いたことがなかった。
何やら変な勘違いをされていると察した私は、それを訂正しようと口を開こうとする。
しかし、唇が離れたところで腕を掴まれる感覚が襲い、反射的に口を固く閉ざしてしまう。
困惑で体を固くしていると、笑顔を浮かべる彼女と目が合った。
その綺麗な赤色の瞳に惹き込まれてしまった私は、話したいことなど忘れ、その目をじっと見つめてしまう。
「俺はキョウカ。この山の奥にある村で、お前と同じ魂の奴と一緒に住んでんだ。」
キョウカはそう言いながら頭をクイッと傾かせ、その方向に村があるように示した。
こういう時は、自分も名乗るべきなのか。
そんな事を考えていると、まるで思考を読んだように「んで、お前の名前は?」と、キョウカの方から切り出してくれた。
「私はユキ、…です。」
やはりまだこの口調は慣れない。後できちんと練習しなければ。
私の名前を聞いたキョウカは、嬉しそうに微笑めば腕からスルリと自然な動作で手を握る。
「ユキか、よろしくな!」
私は無言のまま頷く。
その時、ふと勘違いを訂正したかった事を思い出し、キョウカから次の言葉が出る前に、慌てて口を開いた。
「あの、」
その声は若干裏返り、キョウカも私の声を聞くと微笑むのをやめ、キョトンとした表情を浮かべる。
彼女が聞く体勢になってくれたおかげで、私は随分話しやすくなった。
しかし、「私」という単語を声に乗せたあと、言葉が詰まるような感覚に陥り、それ以上言葉を発せなくなってしまう。
「…おい?ユキ、大丈夫か?」
吐き気だ。
それも、かなり強いもの。
彼女の前で吐くわけにはいかず、口を強く手で抑える。
すると、キョウカは異変を感じとってくれたのか、「大丈夫か?」と、優しい声色で声をかけてくれた。
私は彼女の問いかけに対し、「いいえ」と答えるように首を横に振る。
血が引いていく感覚を覚えながらその場にしゃがもうと足を引くと、突然ふわりと体が宙に浮いた。
「ちょっと耐えてろ。村は近いから。」
そう言ったキョウカは、私を抱きながら飛ぶように移動しだす。
私はキョウカの顔をボンヤリと眺めていると、少しずつ瞼が重くなってきて、気づけば視界は太陽の光も通さないほど、真っ暗になっていた。
『もう、終わらせてほしいの。この連鎖を。』
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