6 プロジェクト

「あのぉ、大山と申しますが」

「あぁ、大山さん。神岡室長からお伺いしています。どうぞこちらへ」

 訪れたラボの会議室に通される。

「どうも、ここの所長の秋山です。神岡さんからは、厚生労働省の極秘プロジェクトだと言うことでお聞きしています」

 遅れてやってきた秋山から名刺をもらい、私と咲希は椅子に腰掛ける。

「プロジェクト名は、RJと決まったそうです」

「RJですか…」

 

「ここでは、基礎研究と非臨床試験の設備までは揃っています、その器材等を扱えるスタッフを3名専属でプロジェクト入りさせますのでご紹介しますね」

「はぁ」

「左から、椿本、春日、坂下です」

「大山大介です。言いにくいのですが妻の咲希です、よろしくお願いします」

 咲希が妻と言われて、うれし恥ずかしそうに頭を下げる。

「えっ、ええ〜!!」

 四人が腰を抜かす。そりゃそうだ、61歳と19歳の42歳差の夫婦だと名乗ったのだから。

 各自、簡単に自己紹介をする。

 椿本は40歳男性、春日は35歳男性、坂下は32歳女性だ。


「RJは極秘プロジェクトなので、機密保持は徹底してもらいたいのですが…」

 咲希が話し始める。

「それは大丈夫です。私も彼らも個々に機密保持契約を交わしていますから」

「では、開発しようとする新薬リジュベルミンは、実際は既に完成しています」

「えっ?!」

「実は、夫と既に開発には成功して、私本人が第一治験者なのです」

 あー、そう言うことか。すごい薬なんだな。でもそれなら、なんでラボに?と皆が思う。

「事情があって、そのリジュベルミンは失われてしまったので、このラボで再生成しようと考えています」


「なるほど、もう基礎研究と非臨床試験は終わっているわけですね」

「ええ、そうなのですが、非臨床試験のデータも失われてしまったので、世の中に出すには、もう一度行う必要があるのです」

「それなら2〜3年で、臨床に持って行けそうですね」

「春日さんの、おっしゃる通りです。今からその構造式を説明します」


 こうして、私と咲希を入れたプロジェクトRJはスタートした。

 月曜日から金曜日は朝9時に出勤して夕方4時で帰路につく。三か月、私達は毎日二時間のこの通勤時間の車で、たわいも無い話しをしたり、別世界線でのリジュベルミンの開発秘話を聞いたり、薬学の議論をしたり。白熱すると帰宅してからも話しは続く。

 私にもどう言うことを言うと、咲希がふてくされるのか、あるいは喜ぶのか、徐々に分かってきた。咲希の方は、私のツボはお見通しのようであるが、私は手探りだ。

 この時間のおかげで、かなり信頼関係も出来、夫婦としても親密にはなっていった。

 咲希が、そう言う関係を望んでいたのだから、どちらかといえば私が咲希の押しに折れていった結果とも言える。


 そしてついに最初のリジュベルミンが完成した。出来てしまえば普通の水色の錠剤である。既にマウスへの投与は開始されていて、その効果の確認待ちではあるが、今のところ毒性や異常行動などはないと思われる。

「これで本当に若返るんですかね?」

 一番若い坂下さんが、私に聞く。

「効かなければ、私が神岡を騙したことになって叱られるだろうね」

「叱られるだけで済めばいいですけどね」

「だね」

「始めは驚きましたが、大山さんと咲希さんって、いいご夫婦ですね」

「そうかい?咲希に言ってやってくれると凄く喜ぶと思うよ」

「そうやって、いつも大山さんが咲希さんを気遣っているところがいいんですよ」

「ははは、見た目は孫でもおかしくないくらい離れているからね。何をしても可愛いよ」


「なんの話しをしてるんですか?」

 通りがかった咲希が話しに割り込んでくる。

「咲希が何をしても可愛いって話しさ」

 それを聞いた咲希は、耳まで真っ赤になる。

「はず…恥ずかしいことを人に言わないでください」

 目が泳いでいる。それを見た坂下が口に手を当ててクスクス笑う。

 椿本さんと春日さんからも、咲希ちゃん、咲希ちゃんと可愛いがられながらも、プロジェクトのメインだから尊敬もされている。私は共同開発者となってはいるが、ハッタリもいいところだ。

 リジュベルミンの開発は、今のところ順調だ。


「今日は、一緒に寝ます」

 寝室に咲希が枕を持ってやってきた。

 一緒に暮らし始めてから、咲希は宣言通り、週に1〜2回は私の寝室にこうしてやってくる。最初は、抵抗していた私だがだんだん押されて、今はもう何も言わなくなった。背中を向けていると後ろから抱きつく、仰向けだと私の首のところに頭を乗せてくる。もう最近は腕枕をしてやって眠るようになってしまった。


「あれは私が30歳の誕生日でした」

 咲希は一緒に寝ると、決まって元の世界線で私と暮らした思い出を話しを始める。

「あなたは私の誕生日を忘れていたの」

「それはすまなかった」

 私は別世界線の私に成り代わって謝る。

「きっと研究で頭がいっぱいだったのね」

 咲希が30歳だと言うことは、私は41歳か。脂の乗っていた頃だな。

「それでね、こうして一緒に寝る前になって、今日は私の誕生日だったんだよって言ったの」

「もっと早く言ってやればよかったのに…」

「そしたらあなたは、急に起き出して今からお祝いしようって」

「ははは、罪滅ぼしだね」

「もう歯も磨いていたのに、パジャマのままで、ワインとチーズでお祝いしてくれたわ」

「パジャマパーティーか」

「私はそれがおかしくて、レストランを予約してディナーを食べたことより忘れられないの」

 別世界線の私、しっかりしろよ〜と言ってやりたい。

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