7 治験

 私と咲希のラボ通いも二年が経過して、2027年になった。非臨床試験はヒトのIPS細胞を使った試験にも合格した。

 次は臨床試験だが、どこかの病院にお願いする必要がある。咲希の元の世界線での話しもあるので、ここから先は国に任せるのが良いと考えている。自分たちは薬さえ作れれば、名声やお金はどうでも良いのだ。咲希が言っていた、自分が殺された疑惑もあることだし、咲希と一緒に危ない橋を渡るよりはその方がいい。

 

「咲希、ここから先はまた神岡と交渉して丸投げしてしまおうと思うのだけれど、きみはどう思う?」

 またベッドに咲希がやって来たので、聞いてみる。

「これであなたの夢が叶ったのなら良いと思います」

「うん、若返り薬を作りたいと言う夢は叶ったよ」

「もともと厚生労働省のプロジェクトですしね。治験については神岡さんにお任せするのは賛成です」

「咲希はそれでいいのかい?」

「私は、あなたが若返って、一緒に過ごせればあとは何もいりません」

 私は咲希の頭を抱きしめて髪を撫でた。


 そんな話しをした翌日、ラボにひょっこりと神岡が現れた。

「大山さん、完成したそうですね」

「うん、ちょうど神岡にこれからのことを相談しようと思っていたところだよ」

「私もね、四月で役所を退職したところなんですよ」

「えっ?!プロジェクトはどうなるの?」

「部下だった山﨑が、引き継いでます」

「神岡さんの後を引き続きました、厚生労働省の山﨑です。よろしくお願いします」

 神岡の横にいた、柔道でもやっていたのかと思うほど、ガタイのゴツい男が挨拶した。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 咲希と二人で握手を交わす。

 

「それでね、大山さんにお願いがあって」

 神岡が申し訳無さそうな顔して言う。

「役所を退職して、国立先端医療研究所ってとこの所長のポストをいただいたんですよ」

 いわゆるこれが天下りという奴なのだろう。いいなぁ〜。

「言いにくいんですが、そこで私に治験をやらせてもらえないかと…イヤイヤ、もちろん大山さんと咲希さんの共同研究者としてですよ!」

「えっ?!」

「末席に加えてもらえるだけでいいので、天下りの手土産といいますか、そのぅ〜、虫のいい話しですみません」


「イヤ、神岡!それはこちらからお願いしようと、咲希と昨夜話したところだよ」

「そうなんですか?!」

「私達は、あまり開発者として前に出たいとは思っていないんだ」

「でも、うまく運べば、ノーベル賞ものですよ!」

「かも知れないね。でも、それはどうでもいいんだ」

「どうでもいいって…」


 私にすれば、この薬は違う世界線の私と咲希が開発したものだ。今の私は、咲希の知識にすがったに過ぎない。咲希がどうでもいいと言っているものに、私がこだわる道理はない。


「ただ、一つだけ条件があるんだ」

「なんでしょう?」

「私を治験者として、7年リジュベルミンの投与を続けてくれないか?」

「えっ?!大山さん本人が治験者に?」

「咲希と見合う歳に、若返りたいんだ!」

「いいのですか?」

「かまわない」


 私は、咲希を愛しているともう気がついていた。抵抗があったのは観測年齢の差があったからだけなのだ。

 咲希は私の最後の夢を叶えようと、自殺に等しいタイムトラベルで世界線を飛び越えて来た。

 今度は、私が咲希の夢を叶える番だ。


 その夜、また咲希は枕を持ってベッドにやって来た。

「やっと、夢が実現出来そうですね」

「そうだね。あと7年待ってくれ、そうすれば私の観測年齢は35歳、きみは28歳で恥ずかしくない夫婦になれる」

「私は今のままでも、恥ずかしいなんて一度も思ったことありませんけどね」

「それは、すまない!」

「ただ、私はあなたから、まだ大事な事を聞いてませんよ」

「あっ!そうだね…」

 私は改めて咲希の肩を両手で掴み、彼女を見つめて言う。

「愛しているよ、咲希。結婚してくれ」

「もう、してますよ。ウフフ」

 咲希は私の胸に顔を埋めた。

 

-------------


 7年が過ぎ2034年。リジュベルミンにはほぼ問題もなく、私の観測年齢は35歳になり咲希は28歳になった。

 問題はないと言ったが、治験で出てきたリジュベルミンの限界がわかった。

 リジュベルミンでは絶対年齢の延長は無理だったのだ。多分、咲希は、このことを、始めから知っていたような気がする。

 つまり、今年の私の絶対年齢は70歳、咲希は98歳になる。咲希のいた世界線で私は88歳まで生きたそうだから、あと18年、咲希はあと何年頑張れるのだろうか?


 いつだったかのアニメで見たような美しい街並みから、笑っている幸せそうな咲希に目を移す。

「おめでとうございます!」

「コングラチュレーション!」

「おめでとうございます!」

「これで日本人としては…」

 咲希と私、そして神岡は、多くの記者の祝福の言葉と、まばゆいストロボの光りの中で、冬のストックホルムに来ていた。


 完

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