4 戸籍
翌日、私は咲希の戸籍について調べることにして、知り合いの行政書士の西山さんのところに行くことにした。咲希からは必要な情報を聞いたので、その情報で彼女の旧姓沢田咲希と言う人間が、この世界に全くいないのかを確認するためだ。
数日かかると言う西山さんの話しで、お願いだけして戻ってくる。
午後、咲希のベッドが届いた。昨日から家事は手慣れた様子で咲希で全部やってくれている。男一人だと、洗濯物も数日溜めたり、洗い物も翌日にするなど無精をしてしまいがちだが、そう言うことは咲希には許されないらしい。私はベッドの設置を済ませると、何もすることがなくなって、スマホで動画を見たり小説を読んだりゴロゴロしている。
そうしていると、さっそく西山さんから電話がかかってきた。仕事が早い。
「大山さん?頼まれた咲希さんのことですが、確かに本籍地の戸籍上は存在しておりました」
「咲希の戸籍があったと?!」
「それどころか、あなたの奥さんとして、2002年に入籍されているじゃありませんか?!」
「あなたと長い付き合いですが、そんな話し聞いたこともなかったですが、あなたも人が悪いですな!これはいっぱい食わされました!」
「…!!」
「もしもし、大山さん?!」
「あー、すみません。実は妻の戸籍をこっそり調べたくて、西山さんにお願いしたのですよ」
「それならそうと、おっしゃってくだされば良いものを…まぁ、稀にある話しですから」
「すみません。すみません」
「では、これでよろしいですかな」
「十分です。また請求書を送ってください」
「良いですよ。貸にしときましょう。では」
「はぁ、どうも…」
咲希が言っていたことは現実だった。この世界が咲希のタイムトラベルと同時に出来た世界であり、私の戸籍に知らない間に23年前に彼女が入籍していた。
少なくとも法律上は、そう言う辻褄合わせになっているようだ。しかし咲希はこの23年間は、この世界には存在すらしていない。だが彼女は私の妻となるべく戸籍上は存在していたのだ。これでは世間一般では、私は妻の存在を忘れた記憶喪失者となるのだろうか?
ダイニングで咲希と向かってお茶を飲む。咲希はニコニコしながら、昨日買ったブラウスにミニスカートでちょこんと座り、これも昨日買ったマグカップでキリマンジャロを飲んでいる。
やはり年相応の格好をすると可愛らしいものだ。
「知り合いの行政書士に調べてもらったよ」
「なにを?」
不安そうに私を見る。
「きみと私は23年前に入籍して、きみは私の戸籍に入ってるそうだ」
咲希の顔がパァーッと明るくなる。と言うか嬉しさが溢れ落ちるようにニヘラ〜っとしている。
私の疑いも晴れ、自分の存在もはっきりする一番の証拠なのだから最もだ。
「世界線の分岐は、私の存在は全て消去しましたが、物理的なことだけで、そう言う事務書類までは、消去していないのかもですね」
「そうかもしれないな。確かにきみの言うことは真実だと戸籍が証明したことになるね」
「じゃぁ、やっぱり一緒に寝ましょう!」
「いや、どうしてそうなる?」
「私は認めてもらえたのなら、出来るだけあなたとくっついていたいわ」
「イヤイヤイヤ、待ってくれ。戸籍上の話しってだけだ。私は、こんなもうジジイだと言っても良い歳だ」
「私だって、絶対年齢はあなたより年上のババァよ!」
「きみの言葉を使えば、観測年齢が違いすぎる!」
「あなたの最後の言葉…出来れば一緒に若返りたかった」
「それは元の世界線でリジュベルミンがあっての事だろう?」
「作りましょう!!」
「リジュベルミンをか?」
「ええ、そのためにこの世界線に来たのだから」
「出来るのか?!」
「設備さえあれば」
私は、生唾を飲み込んだ。私が35年間かかって作れなかった薬を、咲希が持つ未来の知識を用いれば作れると言うのだ。
「それが出来れば世界が一転するぞ」
「そうはならないわ」
「なぜそう言い切れる?」
「リジュベルミンは、製薬会社と医師会に握りつぶされてしまうの」
「どうして?そんな画期的な薬を?」
「既得権益を守るためって言うのかしら?」
「製薬会社と医師会がか?」
「リジュベルミンが出来た時、待ったと最初に圧力をかけて来たのは、私達がいたナゾニク製薬だったの」
「なぜ?大儲けできるチャンスなのに?」
「今の日本で高齢者医療費っていくらか分かる?」
「ざっくり20兆くらいかな?」
「それがなくなっちゃう恐れがあるの」
「そう言うことか!!」
その20兆円で利益を得ているのは、もちろん製薬会社と多くの病院だ。それが若返りの薬を用いることで、加齢による病気や怪我なくなり、みんなが若返って元気になってしまう。そうなると薬も売れなくなり、病院もたくさん潰れてしまうのだ。だから発表前に握り潰す。
小説のような話しだが、ありそうな話しではある。
「あなたが他界したのも、もしかするとそのせいかもしれないの…」
「殺されたって言うのか?!」
「それは証明出来なかった。でも私はね、あなたがいなくなって12年の間に色んなことがあって、あなたの夢を別世界線で実現しようと決めたの」
咲希はキッとまた覚悟を決めた目で私を見た。
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