3 ショッピング
ショッピングモールに到着した。
「懐かしいわぁ〜、こうしてお店に足を運んで買い物をするのは何年ぶりかしら」
咲希は何故か、はしゃいでいる。車を降りると腕を組んで来る。
「おい!」
「いいじゃない夫婦なんだから!」
「それは別の世界線での話しだろ?!」
「夫婦をやり直すために来たのだから、同じことよ」
まぁいいか…遅く産まれた仲良し親子に見えるかも…だんだんと彼女のペースに巻き込まれている気になるのが、少し癪に触るが、また泣かれても困る。
先ずは彼女の衣類だろう。一緒に女性服売り場に行くのは恥ずかしいので、私は座って待っているから会計の時になったら呼びに来なさいと、一人で行かせる。
女性の買い物は長い、それは2064年になっても変わらないようだ、咲希は何度も似たような服を持って、テナントの前のベンチに腰掛けている私のところに来て、どちらかが似合う?と尋ねた。
迷うのなら、両方買っておけば?と言うとそれは違うのだそうだ。
やっと衣類が終わり、一度車に荷物を置いて、モールの中のカフェで休憩する。私はずっと休憩しているようなものだが。
次は彼女の布団とベッドだ。
「あら、私は一緒のベッドで寝る方がいいわ」
「いや、流石にそれは無理があるだろう?部屋は空き部屋があるし、お互いプライベートな時間と空間も持たないと」
「あなたがそうしたいのならリスペクトするけど、たまには一緒に寝たいわよ」
「私は寝室は一人の方がいいな」
「じゃぁ、時々ね!」
どんどん彼女のペースになっている。
私はだんだんと、彼女が昔からの妻だったような錯覚を覚えるようになってきていた。
ベッドと寝具を後で配達で購入し、彼女の食器類と食品を買い帰ろうとしたら彼女がモジモジしている。何かと思ったら、耳そばで小声で生理用品が必要なのだとか。なんでもリジュベルミンを飲み始めて6年目くらいから、また生理が始まったのだとか。それが本当ならリジュベルミンは凄いな。
ついでに彼女の化粧品やらいろいろ買ったら、結構な散財になったが保護すると約束した以上仕方がない。男には全く必要のないものも、女性にはいろいろ必要なのだなと学習した。
買い物で、彼女の嗜好もいくらかは垣間見えた。コーヒーは、キリマンジャロ。食事は野菜中心らしいが、高野豆腐とか男の一人暮らしでは、なかなか買わないものも買っていた。服や布団、化粧品などから推測すると淡いパステルカラーのものが好きなようだ。そのくせにヒラヒラのスカートではなく、黒のミニのようなガッツリしたものも買っていた。
統一性の無さが、まだ自分のスタイルを迷っている20歳そこそこの女性らしく、少し微笑ましいと思う。しかし、彼女に言わせると、ババァ趣味から抜け出すのに勇気と苦労が必要だったそうである。時間に逆行して歳が若返ると言うことは、多くの戸惑いも伴うらしい。
今のところ、彼女の言動には一貫性があり、とても嘘を言っているようには思えない自然さと納得せざるを得ない事情に気付かされることが多い。
「お昼は何を食べようか?」
「お寿司とか?」
「うん、じゃあそうしようか」
近くの回転寿司屋に立ち寄る。マグロ祭りと銘打った、キャンペーン中らしい。
「マグロ?!マグロが食べれるの?!」
「漁獲制限は出てきているけど、普通に食べれるよ」
「2040年頃から、国際的に厳しくなってマグロは、ほとんど食べられなくなったのよ」
「それは悲しい未来だな」
「他の魚で再現した、なんちゃってマグロってのが流行ってりしたけどね」
「なんちゃってって、その時代でも死語になっていないのか?!」
私はそっちの方に驚いた。
彼女は、話したようにマグロを中心に私の倍は食べた。若いっていいなとしみじみ思う。ご馳走していて気持ちがいい。いろいろ、まだ考えはまとまらないが、彼女と娘か孫のスタンスで一緒にいることは、私にとっては楽しい時間だと気づく。まぁ、ぶっちゃけ可愛いのだ。
「せっかく出て来たし、ついでに海でも見に行くかい?」
「行く!海見たいわ!」
「じゃぁ、行こう」
買い物に来たのは海辺の街なので、海までは近い。多くの海の景観を売りにしたホテルが立ち並ぶ岬に浜辺を公園にしたところがあり、そこに車を停めるが、ちょうど桜の咲いている季節で、桜の名所でもあるこの場所は、平日にもかかわらず、花見客も入れて結構賑わっていた。
「桜が満開」
「車の中からも結構見れたろ?」
「ええ、でもやっぱり春の風にあたって見る桜はいいわね」
波の音と花見客の笑い声が聞こえる。
浜辺を歩く19歳の、珍しい銀髪美人は絵になるし、歩いているだけでも人目を引く。ショッピングモールでも、腕を組んで歩いているだけで、結構な痛い視線を感じた。
「ねぇ、お姉さん一人?」
20代だろうチャラそうな男が彼女に声をかけた。これが俗に言うナンパと言うやつか?
「いえ、私は夫と一緒です!気分が悪くなるから話しかけないで!」
と私を指さす。男は驚愕の目で一瞬私を見て、続いて彼女を見て半ば怒っているような顔して「ありえねぇ〜!!」と捨て台詞を残して去って行った。
多分信じたわけではないだろうが、親父と一緒かと、めんどくさいとでも思ったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます