第四十六話 夏の陣、炎上する大阪城

🏯『大阪城台所所・やよい記』


第四十六話 夏の陣、炎上する大阪城——やよい、命を抱えて脱出す


——これは、わたくし曲直瀬やよいが、

“戦の炎”の中で命を守り、

大阪城を脱出した日の記である。


---


◆ 夏の陣、ついに激化

その日、大阪城は朝から不穏だった。


空は赤く、

地は震え、

遠くから太鼓と怒号が響く。


お市が叫んだ。


「やよい!

 城の南が燃えてる!

 夏の陣が……

 本格的に始まったんや!」


お澄も震えた声で言った。


「御膳所も……

 もう安全やない……」


やよいの胸がざわついた。


(ついに……

 戦が城に迫った……)


---


◆ 医務からの急報

そこへ玄朔の弟子が駆け込んできた。


「やよい殿!

 医務へ至急!

 “産の者”が一人、

 戦の混乱で倒れられた!」


やよいは息を呑んだ。


(こんな時に……

 産……!?)


千代がやよいの肩を掴んだ。


「やよいさん。

 行きなさい。

 あなたしかおらん」


やよいは頷き、

炎と煙の中を走った。


---


◆ 炎の中の産

医務に着くと、

産婦は苦しげに横たわり、

呼吸は荒く、

汗は冷たかった。


玄朔が叫んだ。


「やよい!

 この産……

 “今ここで”迎えねば死ぬ!」


やよいは匂いを嗅いだ。


(……冷え……

 恐怖……

 血の匂い……

 でも……

 まだ間に合う……)


「玄朔様!

 火を……

 少しだけ近づけてください!」


玄朔は頷き、

火鉢を運んだ。


産婦の脈が少し強くなる。


(いける……

 この命……

 まだ灯ってる……)


---


◆ 城が揺れる

そのとき——

轟音が響き、

医務の壁が揺れた。


弟子が叫んだ。


「敵が城門を破った!

 ここも危険です!」


玄朔がやよいに言った。


「やよい……

 この産……

 “おまえが連れて逃げろ”」


やよいは目を見開いた。


「わたしが……!?

 この状態で……

 外へ……?」


玄朔は静かに言った。


「やよい。

 おまえはもう“後継”や。

 命を守るのは……

 おまえの役目や」


やよいの胸が震えた。


(玄朔様……

 わたしに……

 託すんや……)


---


◆ やよい、脱出を決意

やよいは産婦を抱え、

布で包み、

火鉢の残り火で体を温めながら言った。


「……行きます。

 この命……

 わたしが守ります」


玄朔は頷いた。


「やよい。

 生きて……

 戻ってこい」


---


◆ 炎の回廊を走る

やよいは産婦を抱え、

燃え盛る廊下を走った。


天井が落ち、

煙が押し寄せ、

兵の怒号が響く。


(怖い……

 でも……

 止まれへん……

 この命……

 絶対に守る……)


産婦が弱い声で言った。


「……やよい……

 わたし……

 もう……」


やよいは叫んだ。


「大丈夫です!

 絶対に……

 外へ出します!」


---


◆ 城外への抜け道

やよいは千代から教わった

“御膳所の裏道”へ向かった。


お市とお澄が待っていた。


「やよい!

 こっちや!

 抜け道はまだ塞がれてへん!」


やよいは涙がこぼれた。


「二人とも……

 ありがとう……!」


三人は産婦を支えながら、

暗い抜け道を走った。


背後で城が崩れ、

炎が空を染めた。


---


◆ 城外の光

抜け道を抜けた瞬間——

外の光が差し込んだ。


やよいは産婦を抱きしめた。


「……外です!

 もう大丈夫……!」


その瞬間、

産婦の体が震え、

小さな声が響いた。


「……おぎゃあ……!」


やよいの目から涙が溢れた。


(この炎の中で……

 命が……

 生まれた……)


---


◆ 老いたやよいの一行

——あの日、

わたくしは大阪城の炎の中で

一つの命を抱えて脱出した。


戦の炎はすべてを焼き、

多くの命を奪った。


だがその中で、

一つの命が生まれた。


その瞬間、

わたくしは“産科の道”を

生涯の道と決めたのである。

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