第四十五話 やよい、玄朔の“重大な決断”を聞く
🏯『大阪城台所所・やよい記』
第四十五話 やよい、玄朔の“重大な決断”を聞く——産科の未来を託される
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
“産科の未来”を託された日の記である。
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◆ 戦の負傷者を救った翌日
医務の混乱が少し落ち着いた頃。
やよいは薬草の片付けをしていた。
玄朔が静かに呼んだ。
「やよい。
少し話がある。
こっちへ来い」
その声は、
いつもより深く、重かった。
やよいの胸がざわついた。
(玄朔様……
何を話すんやろ……)
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◆ 玄朔の沈黙
医務の奥の部屋。
玄朔は火鉢の前に座り、
しばらく何も言わなかった。
やよいは緊張で手を握りしめた。
(こんなに静かな玄朔様……
初めてや……)
やがて玄朔は、
ゆっくりと口を開いた。
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◆ 玄朔の言葉
「やよい。
おまえは……
わしの想像を超えて成長した」
やよいは息を呑んだ。
玄朔は続けた。
「料理の舌。
医の舌。
匂いの才。
火の呼吸。
そして……
産を迎える覚悟」
「その全部を持つ者は、
わしの長い医者人生でも見たことがない」
やよいの胸が熱くなった。
(玄朔様が……
そんなふうに……)
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◆ 玄朔の“重大な決断”
玄朔はやよいの前に膝をつき、
まっすぐに見つめた。
「やよい。
わしは……
産科の未来を……
おまえに託したい」
やよいは目を見開いた。
「わ、わたしに……!?
そんな……
大それたこと……」
玄朔は首を振った。
「やよい。
これは“願い”やない。
“決断”や」
「わしはもう歳や。
戦が続けば、
いつ倒れてもおかしくない」
「せやけど……
産の道は続けなあかん。
命を迎える者が……
絶えたらあかん」
やよいの胸が締めつけられた。
(玄朔様……
そんな……
弱気なこと……
言わんといて……)
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◆ やよいの迷い
やよいは震える声で言った。
「玄朔様……
わたし……
まだ未熟です……
産の判断も……
怖いです……
命を預かるなんて……
わたしには……」
玄朔は静かに言った。
「やよい。
“怖い”と思える者だけが、
命を迎える資格がある」
やよいは息を呑んだ。
玄朔は続けた。
「怖さを忘れた者は、
命を雑に扱う。
怖さを抱えた者は、
命に寄り添える」
「おまえは……
後者や」
やよいの目に涙が滲んだ。
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◆ 玄朔の手
玄朔はやよいの手を取り、
そっと包んだ。
「やよい。
おまえの手は……
命を迎える手や」
「この手に……
産科の未来を託したい」
やよいは震えながら言った。
「……玄朔様……
わたし……
そんな大役……
務まるか分かりません……」
玄朔は微笑んだ。
「務まるかどうかは……
歩きながら決めたらええ」
「わしも最初は未熟やった。
おまえも同じや」
「せやけど……
おまえには“才”がある。
そして……
“覚悟”がある」
やよいは涙をこぼした。
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◆ やよいの決意
やよいは深く頭を下げた。
「玄朔様……
わたし……
産科の道……
歩きます……」
玄朔は静かに頷いた。
「やよい。
それでええ」
「今日からおまえは……
わしの“後継”や」
やよいの胸が震えた。
(わたし……
産科の未来を……
託されたんや……)
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◆ 老いたやよいの一行
——あの日、
わたくしは玄朔様から
“産科の未来”を託された。
その言葉は重く、
怖く、
そして……
温かかった。
料理と医術と産科。
その三つの道が、
一本の“命の道”となった瞬間であった。
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