第四十三話 やよい、戦のための“兵の膳”を任される
🏯『大阪城台所所・やよい記』
第四十三話 やよい、戦のための“兵の膳”を任される——命を鼓舞する料理
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
“戦に向かう者の命を支える料理”を初めて作った日の記である。
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◆ 御膳所に走り込む使者
その日の朝。
御膳所の空気は、火床の炎よりも熱かった。
使者が駆け込んできた。
「宗右衛門殿!
兵の出立が早まった!
“兵の膳”を急ぎ整えてほしいとの仰せじゃ!」
御膳所中がざわめいた。
お市が言った。
「兵の膳……
あれは“命を鼓舞する料理”や……」
お澄も震える声で言った。
「千代さんでも難しいのに……
誰が作るんやろ……」
そのとき、
千代が静かに言った。
「やよいさん。
あなたが作りなさい」
御膳所が凍りついた。
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◆ 千代の決断
やよいは驚いた。
「わ、わたしが……!?
兵の膳なんて……
そんな大役……」
千代は火床の前で言った。
「やよいさん。
あなたの料理は“命を支える味”よ」
「戦に向かう兵には、
“体を温め、
気を奮い立たせ、
恐れを和らげる味”が必要なの」
やよいは胸が震えた。
(わたしの料理が……
戦に向かう人の背中を押す……)
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◆ 兵の膳の素材
千代は素材を並べた。
・鶏肉
・生姜
・人参
・干し椎茸
・味噌
・黒胡麻
・米
千代が言った。
「兵の膳は“力の膳”。
でも、ただ重いだけではあかん」
「体を温め、
気を巡らせ、
心を落ち着かせる味が必要なの」
やよいは素材を手に取り、
匂いを嗅ぎ、
触り、
考えた。
(鶏肉は……
気を補う……)
(生姜は……
体を温める……)
(味噌は……
心を落ち着かせる……)
(黒胡麻は……
力をつける……)
千代が言った。
「やよいさん。
どう組み立てる?」
やよいは答えた。
「……鶏肉と野菜を煮て……
味噌で整えて……
黒胡麻で力を……
生姜で体を温めます……」
千代は微笑んだ。
「やよいさん。
それが“兵の膳”よ」
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◆ 火床の前で
やよいは火床の前に座り、
薪をくべた。
(戦に向かう人たち……
怖いやろう……
寒いやろう……
不安やろう……)
(その心を……
少しでも温めたい……)
火が静かに揺れた。
千代が言った。
「やよいさん。
火が……
あなたの気持ちに応えてるわ」
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◆ やよい、味を決める
やよいは鶏肉と野菜を煮込み、
味噌を溶き、
生姜を加え、
黒胡麻を散らした。
味見をすると——
(……温かい……
体の奥から力が湧く……
心が落ち着く……)
千代が一口飲んだ。
「やよいさん。
これは……
“戦に向かう者の味”よ」
宗右衛門も頷いた。
「やよい。
これなら兵の心に届く」
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◆ 兵たちの前で
やよいは兵の陣へ向かい、
膳を配った。
兵たちは疲れた顔をしていたが、
一口飲むと——
表情が変わった。
「……あったかい……」
「体が……
軽くなる……」
「これなら……
戦える……!」
やよいの胸が熱くなった。
(わたしの料理が……
誰かの背中を押してる……)
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◆ 兵の若者の言葉
一人の若い兵が、
やよいに深く頭を下げた。
「……ありがとう……
怖かったけど……
この膳を食べたら……
少しだけ勇気が出た……」
やよいは涙がこぼれそうになった。
「……どうか……
ご無事で……」
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◆ 老いたやよいの一行
——あの日、
わたくしは初めて“兵の膳”を作った。
料理は、
ただ腹を満たすものではない。
心を支え、
恐れを和らげ、
命を鼓舞する力を持つ。
その力を知ったとき、
わたくしは初めて
“料理が戦を越える”ことを理解したのである。
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