第四十一話 やよい、千代と“料理の未来”を語る
🏯『大阪城台所所・やよい記』
第四十一話 やよい、千代と“料理の未来”を語る——命を支える食の哲学
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
“料理とは何か”を初めて深く考えた日の記である。
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◆ 産の翌朝、御膳所にて
前夜の産の緊張がまだ体に残っていた。
やよいは御膳所に入ると、
千代が火床の前で静かに座っていた。
「やよいさん。
こっちへ来なさい」
やよいは驚いた。
(千代さんが……
こんな静かな声で呼ぶなんて……)
千代は火を見つめたまま言った。
「昨日の産……
聞いたわよ」
やよいは胸が熱くなった。
「……わたし……
なんとか……
命を迎えられました」
千代はゆっくりと頷いた。
「やよいさん。
あなたはもう“ただの料理人”やないわ」
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◆ 千代の問い
千代は火床の火を指さした。
「やよいさん。
料理って、何やと思う?」
やよいは戸惑った。
「料理は……
食べるもの……
体を支えるもの……
命をつなぐもの……」
千代は首を振った。
「それだけやないの」
やよいは息を呑んだ。
(千代さんが……
“料理とは何か”を語るなんて……
初めて……)
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◆ 千代の“料理の哲学”
千代は静かに言った。
「料理はね、
“人の心と体を整えるもの”よ」
「病の者には、
体を癒す味を」
「戦に向かう者には、
気を奮い立たせる味を」
「産を迎える者には、
命を支える味を」
やよいは胸が震えた。
(料理が……
心と体を整える……)
千代は続けた。
「やよいさん。
あなたの料理は……
“医の料理”になりつつあるのよ」
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◆ やよいの迷い
やよいは火を見つめながら言った。
「千代さん……
わたし……
料理も……
産科も……
どっちも大事で……
でも……
どっちを選べばいいのか……
分からなくて……」
千代は微笑んだ。
「やよいさん。
選ばんでええのよ」
やよいは目を見開いた。
「選ばなくて……
いい……?」
千代は頷いた。
「料理と医術。
その二つを“繋げる者”がいてもええやない」
「あなたはその道を歩ける子よ」
やよいの胸が熱くなった。
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◆ 千代の本音
千代は少しだけ目を伏せた。
「やよいさん。
最初、あなたを敵やと思ってた」
やよいは息を呑んだ。
「でもね……
あなたの料理を見て、
産の場での姿を聞いて……
分かったの」
千代はやよいをまっすぐ見た。
「あなたは……
“料理の未来”を変える子や」
やよいの目に涙が滲んだ。
(千代さんが……
わたしを……
未来を変える子って……)
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◆ 火床の前で交わした約束
千代は火床の火を整えながら言った。
「やよいさん。
あなたが産科の道を歩いても、
料理の道を歩いても……
どっちでもええ」
「でもね、
“命を支える料理”だけは、
絶対に忘れたらあかん」
やよいは深く頷いた。
「……はい。
忘れません」
千代は微笑んだ。
「それでええのよ。
あなたは……
あなたの道を歩きなさい」
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◆ 老いたやよいの一行
——あの日、
わたくしは千代殿から
“料理の哲学”を授かった。
料理は、
ただ腹を満たすものではない。
心を整え、
体を支え、
命を迎える力を持つ。
その言葉は、
わたくしの産科の道を照らす
大きな灯となったのである。
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