第三十八話 やよい、玄朔から“産科の正式な教え”を受ける
🏯『大阪城台所所・やよい記』
第三十八話 やよい、玄朔から“産科の正式な教え”を受ける——命を迎える者の覚悟
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
“命を迎える者の覚悟”を初めて知った日の記である。
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◆ 難産の翌日、玄朔の呼び出し
やよいが御膳所で仕込みをしていると、
玄朔の弟子が駆け込んできた。
「やよい殿!
玄朔様が“至急に来い”と!」
千代が振り返った。
「やよいさん。
昨日の産の件ね……
行きなさい」
やよいは頷き、
医務の部屋へ向かった。
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◆ 玄朔の厳しい目
医務の部屋に入ると、
玄朔は机の前に座り、
薬草を並べていた。
その目は、
いつもの優しさとは違う、
“師の目”だった。
「やよい。
座れ」
やよいは緊張しながら座った。
玄朔は静かに言った。
「昨日の産……
おまえはよくやった」
やよいは胸が熱くなった。
「……ありがとうございます」
しかし玄朔は続けた。
「だがな、やよい。
“感覚”だけでは、
産は救えん」
やよいは息を呑んだ。
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◆ 産科の第一の教え:命は“待たない”
玄朔は薬草を一つ手に取った。
「やよい。
産はな……
病よりも“急”や」
「命は待たん。
迷ったら死ぬ。
遅れたら死ぬ。
判断を誤っても死ぬ」
やよいの胸が締めつけられた。
(命は……
待ってくれへん……)
玄朔は続けた。
「だからこそ、
産科は“覚悟の道”や」
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◆ 産科の第二の教え:匂いで“未来”を読む
玄朔は布を開き、
産のときに使う薬草を並べた。
「やよい。
おまえは匂いで“今”を読む。
それは大した才や」
「だが産科は、
匂いで“未来”を読むんや」
やよいは目を見開いた。
「未来……?」
玄朔は頷いた。
「産婦の汗の匂い、
血の匂い、
呼吸の匂い……
それらは“これから何が起こるか”を教えてくれる」
「匂いが変われば、
産の流れも変わる」
やよいは深く息を吸った。
(匂いで……
未来を読む……)
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◆ 産科の第三の教え:火は“命の灯”
玄朔は火鉢を指さした。
「やよい。
昨日、おまえは産婦の冷えを見抜いた。
あれは見事や」
「産の火はな、
“命の灯”や」
「強すぎれば母を焼き、
弱すぎれば子を凍らせる」
やよいは火を見つめた。
(火が……
命の灯……)
玄朔は続けた。
「おまえは火に好かれとる。
その才を産に使え」
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◆ 玄朔の決意
玄朔はやよいの前に立ち、
静かに言った。
「やよい。
今日からおまえに、
“産科の正式な教え”を授ける」
やよいは息を呑んだ。
「わたしが……
産科を……?」
玄朔は頷いた。
「料理の舌、
医の舌、
匂いの才、
火の呼吸……
その全部を持つ者は、
わしの長い医者人生でも見たことがない」
「やよい。
おまえは……
“産を迎える者”になるべき子や」
やよいの胸が震えた。
(わたし……
この道を……
歩くんや……)
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◆ 老いたやよいの一行
——あの日、
わたくしは玄朔様から
“産科の正式な教え”を授かった。
命は待たず、
匂いは未来を語り、
火は命の灯となる。
その教えは、
わたくしの人生を決める
大きな分岐点となった。
料理と医術の道が、
一本の“命の道”へと繋がり始めたのである。
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