第三十七話 やよい、千代と共に“犯人探し”へ

🏯『大阪城台所所・やよい記』


第三十七話 やよい、千代と共に“犯人探し”へ——味と匂いで真実を追う


——これは、わたくし曲直瀬やよいが、

“料理の技”で真実を追い、

御膳所の闇に踏み込んだ日の記である。


---


◆ 御膳所に戻った二人

上様の膳に“体質に合わぬ組み合わせ”があったと判明したあと、

やよいと千代は御膳所へ戻った。


空気は重く、

誰もが互いを疑っているようだった。


お市が震える声で言った。


「……誰が、そんなこと……?」


お澄も呟いた。


「毒やないにしても……

 上様の膳に“合わん味”を入れるなんて……

 普通はせえへん……」


千代は静かに言った。


「やよいさん。

 “味”と“匂い”で探すわよ」


やよいは頷いた。


(料理の技で……

 真実を追う……

 逃げへん……)


---


◆ 千代の推理

千代は御膳所の台を見渡し、

素材の並びを確認した。


「上様の膳に使われた素材は、

 すべて“御膳所の中”にあるもの」


「つまり……

 外から毒を入れたわけやない」


やよいは息を呑んだ。


「じゃあ……

 御膳所の誰かが……?」


千代は首を振った。


「まだ断定はできないわ。

 でもね、

 “味の癖”は隠せないの」


「料理人は、

 無意識に“自分の味”を出すものよ」


やよいは目を見開いた。


(味の癖……

 それなら……

 わたしの舌で……)


---


◆ やよい、台所を歩く

やよいは御膳所の台を一つずつ見て回り、

素材の匂いを嗅ぎ、

残った汁を舐め、

火床の温度を確かめた。


(……この台……

 火が強すぎる……

 昨日の膳の“熱の強さ”に似てる……)


(……この台……

 薬味の匂いが強い……

 上様の膳の“香りの重さ”に似てる……)


千代が言った。


「やよいさん。

 “似ている”だけでは足りないわ」


「決め手は……

 “味の癖”よ」


---


◆ 味の癖

千代は三人の料理人を呼んだ。


・火を強く使う者

・薬味を多く使う者

・味を濃くする癖のある者


千代が言った。


「やよいさん。

 三人の“味”を見て」


やよいは一人ずつ、

小皿に盛られた料理を味わった。


(……この人の味……

 火が強いけど……

 昨日の膳とは違う……)


(……この人の味……

 薬味が強い……

 でも……

 昨日の膳ほど重くない……)


(……この人の味……

 濃い……

 でも……

 昨日の膳の“重さ”とは違う……)


やよいは首を振った。


「……違います……

 この三人では……

 ありません……」


御膳所中がざわめいた。


千代は静かに言った。


「やよいさん。

 なら……

 “もう一人”いるわね」


やよいは息を呑んだ。


(もう一人……?)


---


◆ もう一人の料理人

千代は御膳所の隅を指さした。


そこには、

普段は雑用をしている若い男がいた。


「……あの子……?」


お市が驚いた声を上げた。


「でもあの子は……

 まだ見習いやで……?」


千代は首を振った。


「見習いでも、

 “味の癖”はあるのよ」


やよいは男の前に立った。


「……あなたの料理を……

 味見させてください」


男は震えながら皿を差し出した。


やよいは一口食べた。


そして——

目を見開いた。


(……この味……

 昨日の膳の“重さ”と……

 同じ……)


(火の強さも……

 薬味の重さも……

 全部……

 “似てる”んやない……

 “同じ”や……)


やよいは震える声で言った。


「……あなたです」


御膳所中が凍りついた。


---


◆ 真実

男は膝をつき、

震えながら言った。


「ち、違うんです……

 毒を入れたわけやない……

 ただ……

 “上様に気に入られたくて”……

 味を濃くしただけで……!」


千代が低く言った。


「味を濃くするのは、

 あなたの癖ね」


玄朔が言った。


「上様の体質には、

 その“濃さ”が毒になる」


男は泣き崩れた。


「そんな……

 そんなつもりじゃ……!」


宗右衛門は深く息をついた。


「悪意はなかったんやろう。

 せやけど……

 “料理の責任”は重い」


やよいは胸が締めつけられた。


(料理は……

 命を救うだけやない……

 命を脅かすこともある……)


千代がやよいの肩に手を置いた。


「やよいさん。

 あなたが真実を見つけたのよ」


---


◆ 老いたやよいの一行

——あの日、

わたくしは“味の癖”で真実を見抜いた。


料理は、

作った者の心と癖が必ず出る。


それは隠せない。

嘘もつけない。


だからこそ、

料理は真実を語る。


その日、

わたくしは“料理の技”が

命を守るための武器にもなることを知ったのである。

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