第二十七話 やよい、千代と“二人で作る料理
🏯『大阪城台所所・やよい記』
第二十七話 やよい、千代と“二人で作る料理”——敵が味方へ変わる瞬間
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
“敵”と思っていた人と、
初めて心を通わせた日の記である。
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◆ 千代の提案
御膳所の朝。
千代はやよいの前に立ち、
静かに言った。
「やよいさん。
今日は“二人で一つの料理”を作りましょう」
やよいは驚いた。
「二人で……?」
千代は頷いた。
「料理はね、
“独りで極める道”やと思われがちやけど……
本当は違うの」
「誰かと作ることで、
自分の弱さも、強さも見えるのよ」
やよいの胸が震えた。
(千代さん……
わたしを……
認めてくれたんや……?)
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◆ 課題は「産後の膳」
宗右衛門が火床の前で言った。
「今日の課題は“産後の膳”や」
御膳所がざわめいた。
「産後の膳……!?
命を産んだ後の……
あの特別な料理……!」
「千代さんの得意分野や……!」
玄朔が言った。
「やよい。
おまえの“医の目”が必要や」
やよいは息を呑んだ。
(料理と……
医術……
両方が必要な料理……)
千代は微笑んだ。
「やよいさん。
あなたの“舌”と“鼻”を貸して」
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◆ 二人で素材を選ぶ
千代は素材を並べた。
・白米
・鶏肉
・大根
・生姜
・干し椎茸
・小松菜
・葛粉
千代が言った。
「産後の体はね、
血が減って、
気が弱って、
冷えやすいの」
やよいは素材を手に取り、
匂いを嗅ぎ、
触り、
考えた。
(大根は……
体を冷やす……
でも煮れば優しい……)
(鶏肉は……
気を補う……
でも固いと喉を通らへん……)
(生姜は……
体を温める……
でも入れすぎると熱が上がる……)
千代が言った。
「やよいさん。
どう思う?」
やよいは答えた。
「……大根は薄く……
鶏肉は細かく……
生姜は……
ほんの少し……」
千代は目を見開いた。
「やよいさん……
あなた……
“産の料理”が分かってるのね」
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◆ 二人で火床の前に立つ
千代が火を整え、
やよいが素材を刻む。
千代が言った。
「やよいさん。
包丁の音が軽くなったわね」
やよいは微笑んだ。
「千代さんに教えてもらったからです」
千代は少し照れたように言った。
「……素直な子ね」
火床の火が、
二人の呼吸に合わせて揺れた。
(火が……
二人の動きを見てる……)
千代が言った。
「やよいさん。
火はね、
“二人の呼吸”も読むのよ」
やよいは驚いた。
「二人の……?」
「そう。
料理は“独りの技”やない。
“二人の心”で作るものよ」
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◆ 完成した“産後の膳”
二人が作ったのは——
鶏と大根の葛仕立ての汁物。
とろりと優しく、
喉を通りやすく、
体を温め、
胃に負担をかけない。
玄朔が一口飲んだ。
「……これは……
産の体に、
よう効く……」
宗右衛門も頷いた。
「千代の技と、
やよいの心が混ざった味や」
千代はやよいを見た。
「やよいさん。
あなたとなら……
もっと高いところへ行ける気がするわ」
やよいの胸が熱くなった。
(千代さん……
敵やない……
味方なんや……)
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◆ 老いたやよいの一行
——あの日、
わたくしは千代殿と“二人で料理”を作った。
敵と思っていた人が、
いつの間にか味方になり、
師になり、
仲間になった。
料理は独りで極めるものではない。
誰かと作ることで、
自分の弱さも、
強さも知ることができる。
その日、
わたくしは料理の道の深さを知ったのである。
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