第二十四話 やよい、御膳所の試練
🏯『大阪城台所所・やよい記』
第二十四話 やよい、御膳所の試練——料理の腕と医の目を同時に試される
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
“料理”と“医術”の両方を試され、
初めて自分の道の重さを知った日の記である。
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◆ 御膳所に走り込む使者
その日の朝。
御膳所の戸が勢いよく開いた。
「宗右衛門殿!
急ぎの御膳や!」
使者は息を切らしながら言った。
「病の将が、
何も食べられぬ状態でな……
“口にできるものを作れ”との仰せじゃ!」
御膳所の空気が凍りついた。
お市が呟いた。
「病の将……
あの方は……
もう何日も食べてへんはず……」
宗右衛門は火床の前で腕を組んだ。
「……やよい」
やよいは背筋を伸ばした。
「はい」
「おまえが作れ」
御膳所中がざわめいた。
「やよいが……!?
まだ若いのに……!」
「いや、あの子の舌は確かや……」
宗右衛門は静かに言った。
「病の者に食わせる料理は、
“腕”やない。
“心”や」
やよいの胸が震えた。
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◆ 玄朔が現れる
そのとき、
玄朔が御膳所に入ってきた。
「宗右衛門。
その将の病、
わしが診てきた」
玄朔はやよいを見た。
「やよい。
おまえの“医の目”も試されるぞ」
やよいは息を呑んだ。
(料理と……
医術……
両方……?)
玄朔は続けた。
「その将は、
熱が高く、
喉が腫れ、
胃が弱っている」
「食べられるものは……
限られておる」
宗右衛門が言った。
「やよい。
素材を選べ」
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◆ やよい、素材の“声”を聞く
やよいは台の前に立ち、
素材を一つずつ手に取った。
大根。
(体を冷やす……
熱の者には良い……)
白米。
(胃に優しい……
でも固いと飲み込めへん……)
干し椎茸。
(旨味はあるけど……
喉が腫れてる人には重い……)
鶏肉。
(脂が少ない……
でも固いと喉を通らへん……)
やよいは深く息を吸った。
(……大根と米……
それを……
“飲める形”にする……)
玄朔が言った。
「やよい。
病の者は“噛む力”が弱る。
“飲める料理”を作れ」
宗右衛門が続けた。
「火加減は弱く、
ゆっくり、
ゆっくりや」
やよいは頷いた。
---
◆ やよい、初めての“飲む料理”を作る
やよいは大根を細かく刻み、
米と一緒に弱火で煮た。
(急いだらあかん……
火が強いと……
大根が暴れる……)
火は静かに揺れ、
大根はゆっくり溶けていく。
やよいは味見をした。
(……優しい……
喉に引っかからへん……
体に染みる……)
玄朔が言った。
「やよい。
これは“医の料理”や」
宗右衛門も頷いた。
「これなら……
病の将でも飲める」
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◆ 将の部屋へ
やよいは椀を持って、
将の部屋へ向かった。
将は布団に横たわり、
息が荒かった。
玄朔が言った。
「やよい。
飲ませてみい」
やよいは震える手で椀を差し出した。
「……どうぞ」
将は目を開け、
ゆっくりと口をつけた。
一口。
二口。
三口。
そして——
将はかすかに呟いた。
「……うまい……
体に……
染みる……」
やよいの胸が熱くなった。
(料理で……
命を支えられた……)
玄朔が言った。
「やよい。
おまえは……
料理人であり、
医の者でもある」
---
◆ 老いたやよいの一行
——あの日、
わたくしは初めて“料理の試練”を受けた。
料理は腹を満たすだけやない。
体を治し、
心を支え、
命をつなぐ。
医術と料理は、
どちらも“命を扱う道”。
わたくしはその日、
二つの道を同じ重さで歩く覚悟を決めたのである。
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