第4話 ミッション!生徒会長を説得せよ!

 次の日からは二年生になったことなど遠い昔のことのように、誰も気にすることなく授業が進んでいった。

 僕はすぐに授業が始まって欲しかったのでありがたかった。委員会決めとか、ガイダンスとかはすぐに終わって余った時間は雑談タイムみたいになってしまうのが嫌だからだ。

 そうして面白くはないが、苦痛でもない午前の授業が終わり昼食時間になった。みんな仲の良い人同士で席を囲んだり、一緒に学食に向かったりしていたが、当然に僕は一人だ。

 だけど、僕の他にもそう言う人は何人かいるため思ったよりもダメージはない。いや、一年間も経験したから耐性がついたのかもしれない。

 お弁当の蓋を開けて手を合わせた後に、箸を持った瞬間に後方から声をかけられた。

 振り返るとそこには文月さんが書類を見せつけて立っていた。

「どうしたの?」

「正式な部にしてもらうための申請に行こう!」

「今から?」

「今から!そこで受理されたら放課後からは部を名乗っていいんだよ!」

「文月さん一人だとダメなの?」

「生徒会室には魔獣がいるって噂だから」

「魔獣?」

 そうだとしたらそこに書類を届けなければいけないこの制度は欠陥と言わざるを得ない。

「先輩たちに頼むのはダメなの?」

「先輩たちは喧嘩しちゃって自滅する可能性があるから。それに受験生をこんなことで駆り出すっていうのも気が引けるし」

 こんなことに駆り出される僕って一体…………。

 箸をしまって、お弁当の蓋を閉めて席を立つ。魔獣がいるのだとしたらそれはそれで拝見させていただきたい。かっこよかったらいいなぁ。

 横並びで廊下を歩くと、いつもは感じない人の目線というものを感じた。当然それは僕じゃなくて文月さんに向けられたものであるということは理解しているが、それに巻き込まれているというのもまた事実。

 人から注目され慣れていない僕には、肩身の狭い思いを強いられた。それを紛らわすためにも前提を質問する。

「この時間に生徒会室って人いるの?」

「うーん、いるんじゃないかなあー?あ、そうだ!それよりもこの書類に葉守くんの名前書かないと!」

 改めてその紙を見ると、僕以外の昨日あの空き教室にいた人たちのフルネームが四人分書かれていた。

「わかった。ペンある?」

「あーちょっと待ってね」

 そう言うと、文月さんは近くにあった三組の教室へ顔を出した。

「薫ちゃーん!ペン持ってるー?」

「あ、菖芽!あるよー!一本でいい?」

「うん!ありがとう!」

 僕にはその一連の流れは恐怖映像にしか見えなかった。だって、たまたま近くにあった教室で何の躊躇いもなく大声を出して友達を呼んで、ペンを貸してもらうなんて、僕には一生かかってもできはしないからだ。

「この男の子が最後の五人目?」

 ペンを文月さんに手渡した薫さんは僕を見て、そう訊いた。急に話題に出されたことにより、僕はめちゃくちゃ動揺した。

「そうだよー。昨日入ってくれたの」

「へぇー。心霊系好きなの?」

 今度は明確に僕に向けた質問だった。

「うん、大好き!」

「いや、菖芽じゃなくて」

 その明確さは文月さんには伝わらなかったみたい。

「うん、まあまあ好きかな」

 僕は挙動がおかしくならないように努めて、そんな面白くない答えを返した。本当は文月さんに外堀を埋められて頷くしかなかっただけだけど。

「うーん、なんか幽霊が寄ってきそうだね、君」

 これは悪口として捉えていいのかな?そう思ったけど、昨日夢と同じような会話をしたことを思い出して、どうでも良くなった。

 僕は貸してもらったペンを握って自身の名前を書く。初めて女の子のペンを使ったため、ちょっと緊張して字がふにゃふにゃで上手く書けなかった。我ながら情けない。

「ありがとう」

 口元あたりを見て、ペンを差し出しながらお礼を言った。それが手から離れると、文月さんは待ちきれないとでも言うように、「早く行こう!」と急かしてきた。

 そうして生徒会室に到着して、その扉をノックする。返事があった。どうやらしっかりと在宅していたみたいだ。

「失礼しまーす!部活動申請に来ました!」

 こんなこと滅多にないのか、生徒会長である白石結菜さんと副会長の深森澪さんが怪訝な表情を浮かべている。

「部活動申請?」

「はい!五人集まったので!」

 文月さんが書類を机の上に置くと、白石さんがそれを持って顔の前に持っていく。深森さんもそれを白石さんに顔を近づけて覗き込む。

「「『心霊スポット探検愛好会』?」」

 二人が声を揃えてまず引っ掛かるであろうところに、食いついた。深森さんは厳しい目つきでこちらを睨んだ。

「こんな名前のものが部活動として認められるとでも?」

「確かに!『心霊スポット探検部』ってダサいですもんね!」

「そういうことじゃないと思うよ、文月さん」

 この人って本当に頭いいんだよね?

「そういうことじゃない!」

 ほらね。副会長の逆鱗に触れちゃった。

「いいか!部活動っていうのは生徒の現在と将来で役に立つスキルや知識を身につけるためのものだ!お前たちのその意味のわからない活動はそれらが身につくものでない!そんなものに部費を割り当てられると思うか?」

「いや、待ってください!!」

 相当気合いが入っているのか、目の前の机を両手でバンッと叩いて文月さんは反論を試みる。その目はやる気でみなぎっている。

「お願いします!認めてください!」

 反論しないんだ……。てっきり論理的な考えを述べて、この二人を圧倒して鼻高々に部活として認められたと報告するのだと妄想していたけと、蓋を開けてみれば本当に気合いでどうにかしようとしていた。

 実際に文月さんに向けられているのは冷ややかな目線だ。

「無理だ。さっさと帰れ」

「そこを何とか!」

「もう諦めようよ、文月さん。これ以上は迷惑だよ」

 僕はこのまま続けても話は一向に進展せずに、ただ時間だけが浪費されていくことは簡単に想像できたため、文月さんを諦めさせる方へと家事を切ることにした。

「まだだよ葉守くん!あと一押しだから!」

「一押しが大きすぎる……」

「とにかく!もう少し粘ればいけるって!」

「無理だって!お腹も空いたからそろそろ帰るよ!」

 今度は僕たちが押し問答を始めることとなってしまった。どうしてこうも僕が望む通りの展開にならないのだろう。

「君たちの活動を部として認めてもいいぞ」

 ほとんど口喧嘩へと発展していた僕たちに一筋の光が差し込んだ。光源は生徒会長の白石結菜さんだ。

 文月さんは僕への興味を一瞬で失い、嬉しそうな顔で白石さんを見た。

「本当ですか!」

「なに腑抜けたこと言ってんの、結菜!適当言うなら更迭すっぞ!」

 この人って副会長だよね?めちゃくちゃ会長にあたり強いんですけど。

「待ってって!更迭しないで!」

 この人たちにとって肩書きというものは本当にただの肩書きに過ぎないのであろう。何も知らない人がこの場面を見たら、誰も白石さんが会長で深森さんが副会長だとは思わない。権力が偏りすぎている。

「もちろん、簡単に認めることはしないぞ。そんなことしたら本当に更迭されてしまう」

「だったら、何すればいいんですか!?荷物持ちならここに男の子が!」

「自分は働く気ないんだ……」

 会長は首を横に振る。良かった。僕は運動部の女子よりも筋力がないことを自覚しているから。

「荷物持ちがお荷物になってしまうからその必要はない」

 この人も結構辛辣だなぁー。

「だったら何を?」

「アタシを次の心霊スポット巡りに同行させてくれ。この目で本当に意味ある活動なのかを判断する」

「はい、罷免決定」

「澪!罷免だけは!罷免だけはやめてくれ!」

 この人たちは僕たちの前でコントでもしているのか?それに更迭から罷免にランクアップしているし。

「自分の知らない世界のことを頭ごなしに批判し、否定して突っぱねるのは澪のよくない癖だ。だから選挙でアタシに負けるし、彼氏とも別れてしまう」

「後者はともかく前者は関係ないでしょ!」

 あ、この人そのせいで彼氏と別れたんだ……。でも、確かにそういう性格の人と一緒にいるのは疲れそうだよね。

「自分のお気に入りの世界っていうのは、簡単に傷つき、壊れてしまう。だからこそ、丁寧に扱わなければいけないんだ。だから、アタシと一緒にホラーゲームをしよう!」

「絶対にイヤだ!パーティーゲームでいいじゃん!そんなに怖いのやって何の意味があるの!」

「ほら今!やったことないのに否定した!」

 この人たちは何を言い争っているのだろう……。それにしても……

「会長たちは勉強しなくていいのですか?そんなゲームをしている暇あるんですか?」

 僕の問いに二人は胸を張って答えた。

「風見坂の生徒会長と副会長だぞ?推薦でほとんどどうにかなる」

 うわー。なんか嫌。確かにその通りなんだけど、嫌。

 壁にかかっている大きな丸時計を見ると、あと十五分で昼休みが終わる時間まで差し迫っていた。僕は尚も公論をしている会長たちを尻目に文月さんに囁いた。

「そろそろ本当に帰った方がいいよ。次の授業体育だし、間に合わなくなるよ」

 文月さんは一回、力強く頷いた。

「じゃあ、次は会長さんも連れて行きます!そこで部として認めて良いか判断してください!」

「ああ、そうしよう。連絡先を教えてくれ」

 そうして文月さんと会長は連絡先を交換して、僕らは生徒会室を去った。

「そういえば、私たちも連絡先知らなかったね。交換しよ!」

 僕は家族と美南以外の異性の連絡先を初めて手に入れた。なんか体全体がむず痒くて、口元がモニョモニョしてしまう。

「急ご!次体育だよ!」

 あたかも自分が初めて出した情報であるかのような振る舞いの文月さんに僕はおぼつかない足元の中、転ばないようについていった。

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