第3話 突如として始まる決闘!?
変なものに巻き込まれたことに、今後の不安を抱きながらも自宅の玄関ドアを開いた。
「ただいまー」
玄関には脱ぎ捨てられた妹の靴と、木刀が置かれていた。
僕は全てを理解して、その木刀を手に取って家に上がった。
警戒しながらリビングの扉を開ける。すると、右方向から突進してくる妹が視界に映った。その手にはエアガンが握られていた。
それに気がついた瞬間には、お腹にBB弾を喰らっていた。
「銃はズルいよ」
「木刀があったからって敵が同じ武器だと思っちゃうお兄ちゃんが甘い」
葉守家では僕が帰宅すると、今日みたいにときどき玄関に木刀が置かれている時がある。そうしたら、僕と妹の葉守夢の斬り合いが始まるのだ。
だけど、今日は違った。夢は刀では到底敵わない銃で戦いを挑んできたのだ。
僕はこの戦いを放棄して、ソファに座った。すると、その横に夢もちょこんと腰を下ろした。
「夢、どうだった?新しいクラスは?」
中学三年生の夢は今日から新学期で新クラスの発表であったが、当の本人の反応はあまり芳しいものではなかった。
「知り合いはいた?」
「ううん。佳奈ちゃんは隣のクラスだった」
「そっか。でも、新しいクラスでも頑張れよ」
「うん。お兄ちゃんはどうなの?友だ………ごめんなさい。お兄ちゃんのことを何も考えてない発言でした」
「急に敬語にならないで。より惨めになっちゃうから」
僕よりも少しは友達がいる夢は、そのことで時折このようにマウンティングをしてくるのだけど、その度に僕の心はすり減っていく。けど、最近はそのすり減りの量が極端に減少した気がする。慣れってすごいね。
「今日も母さんの帰りが遅くなるらしいんだけど、夜ご飯はどうする?」
「どうするって、わたししか料理できないんだからお兄ちゃんに選択権はないよ?」
「そうですね……」
滅多に帰ってこない両親を含めても葉守家の中での僕の地位は最下層だ。大人しく掃除でもしようかしら。
そんな感じで一人勝手に落ち込んでいると……
「バーン」
その声と共に再びBB弾で夢に撃たれた。そして、夢はキメ顔で小さく一言。
「これぞ泣きっ面に蜂」
「僕は十四年間も夢の兄をやってきたけど、未だにまだ我が妹を理解できていないみたい」
悲しんでいる人に発砲する子に育てた覚えはないんだけどなぁー。
「でも、僕は愛好会に所属したから今までよりかは人と関わるようになるよ」
「え………。お兄ちゃん、それあれだよ。入ったら退学になっちゃう怪しいやつだよ」
「そんなものが野放しにされるほど、風見坂高校は荒れ果ててはないよ」
「でも!お兄ちゃんが人と関わるのなんて無理だよ!ストレスで病んじゃうよ!」
「僕の妹は僕のことを何だと思っているのだろう……?」
少なくとも普通の一般人だとは思われていなさそうだ。
「それで、どんな愛好会なの?」
「『心霊スポット探検愛好会』っていって、いろんなところの心霊スポットを巡るらしい」
「えっ……。邪気とか運んで来ないでよ」
「大丈夫だと思う。多分」
「それでわたしが死んだら、この家を新たなスポットにする」
「エアガンは置いていってね。急に撃たれたら堪ったものじゃないから」
「まず引っ越しなよ……」
確かにそっか。でもこの家は離れたくないな。生まれてからずっとここに住んでいるし。
「まあ、まずまずわたしは幽霊とかそういう類のは信じてないから全然いいけどね」
「信じたら逆に出そうだしね」
幽霊だって暇じゃないであろうから、見えない人のところにわざわざいようとは思わないだろうし。でも、見えている人のところに行ったら祓われたりしちゃうのかな?
そう考えると幽霊も割と不憫な存在なのかもしれない。
「お兄ちゃんはどうして幽霊に同情してるの?」
「仲間意識が芽生えちゃって」
どこにも居場所がない点においては、僕と似たり寄ったりの存在だ。
というか、この妹は僕が同情していることに何故気付いたんだろう。
「仲間だと間違われて、この家に連れてこないでよ。わたし今年は受験生なんだから。呪われでもしたら滑っちゃうし」
「それは呪いのせいなの……?」
「当たり前」
ちなみに夢の成績は学年の中でも真ん中の方だ。中の上とか、中の下とかじゃなくて本当に中の中。ほとんどの教科が平均点プラスマイナス五点くらいだから、逆にすごい。
「夢はどこの高校に行きたいの?」
「お兄ちゃんと同じ。風見坂」
「そっか」
風見坂は県内でもそこそこ上位の高校だ。僕も中学生の頃は自分で言うのもあれだけど、結構賢かったから合格できたけど入学から周りとの差を痛感して、さらには合格という目標を叶えたことによる燃え尽き症候群で現状はかなり悲惨なことになっている。
「わたしの今の成績だと夢のまた夢かもしれないけど、わたしも行ってみたい」
「夢が夢のまた夢って言うのちょっとややこしい」
「お兄ちゃん!」
急に茶化したことに怒ったのか、頬を膨らませながら睨まれた。
「ごめんごめん。それでどうして風見坂に行きたいの?」
「………お兄ちゃんが楽しそうだから……?」
「もうちょっとマシな嘘をつこうか」
「ごめんなさい……」
「んぅ、やめて。謝らないで……」
この妹は僕の孤独をこれでもかとイジってくる。夢だってちょっと手を加えたら僕と似たような環境なのに。
「行きたい理由はあまり言いたくないの?」
「……うん」
目を伏せて遠慮がちに頷く夢に僕は色々と察した。
夢は今、恋をしている!そして、その相手が風見坂に行きたがっているのだ!うーん、青春だねーー!
「取り敢えず、今は勉強頑張りな。高校受験はスタートダッシュが遅れても全然巻き返しできるから」
「うん。頑張る」
僕は自室に戻るためにソファから立ち上がる。そして、木刀を素早く拾い、優しく夢の頭を叩いた。
僕は一度も夢から仕掛けてきたこの戦いを辞めたなどは口に出していない。重ねて、僕は木刀で一本取った。僕の勝ちだ!
いきなりのことで夢は目を大きく見開いて驚いていた。
「びっくりしたー」
「兄の威厳を取り戻せたかな?」
「尊厳が株価並みに急降下してる」
「中三の返しじゃないよ、それ」
株価なんて中学生の頃、何なら今だって全く興味ないのに。
「じゃあ、僕は勉強してくるから」
「その嘘でさらに低下した。絶対勉強しないくせに」
「夢もやるんだよ。わからなかったら僕を頼っていいから」
「わたしは晩御飯作らないとだから」
「あ、うん。ありがとうございます」
やっぱり僕の尊厳は低空飛行だ。
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