第2話 愛好会?それとも犯罪者集団?
「ふー、危なかったねー」
まるで一仕事終えたのように、額を腕で拭う仕草をする文月さんに僕は冷たい視線を送った。だけど、そんなものには一切気づくことなく、彼女は再び話を戻した。
「それで、野守くんに──────」
「あ、僕は葉守ね」
「え、そうなの!?でも、さっき先生も……」
「それは言わないで欲しい……」
なんか生徒に間違われるよりも傷つくから………
「まぁ、どうでもいいか!それで、葉守くんにも私が振られたことは黙ってて欲しいの」
「それは、まあ。そもそも僕が言ったところで信憑性がなくて信じる人はいないと思うよ」
「そうかもしれないけど、印象は変わるかもしれないからさ」
そこはちょっとでも否定してほしかった……。
「それとさ、葉守くんってここにいるってことは放課後暇だよね!?」
いきなり話が変わって困惑する僕を尻目に、文月さんは期待する眼差しで僕を見つめてくる。僕はその迫力に思わず正直に頷いてしまった。
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「実はさ!私の入っている愛好会に葉守くんも入って欲しいの!」
「愛好会?」
確か、風見坂高校では愛好会や同好会の類のものは存在していないはずだ。部活しかなく、その種類も限られている。
だから、聞きなれないその言葉に思わずおうむ返しをしてしまったのだ。
「葉守くんって怖い番組とか映画とか観る?」
「たまに」
「だったら大丈夫!着いてきて!」
先ほどまでの落ち込んでいた彼女はどこへ行ったのやら、勢いよく駆け出したのを僕は追いかける。
ホラー系の映像を観る愛好会?ホラー映像愛好会?みたいな感じかな?
なんて予想をしつつ、今度は僕が彼女の背中を追うと唐突に空き教室の前で立ち止まった。
「今日はここね!」
「今日は?」
僕の疑問に答えることなく、文月さんはその教室へと入って行った。僕もそれに続いてその教室に足を踏み入れると、そこには僕と同じ学年を示す緑色の線の入った靴を履いた女生徒一人と、一個上の学年の青の線の入った靴を履いた男女が一人ずついた。
そのうち、同じ学年の女生徒は僕の知っている人物であった。
「美南?」
「え、翔?」
そこにいたのは僕が昔から知っている近藤美南であった。同じ高校であることは認識していたが、僕も彼女も教室の外には出ない人種であるし、そもそも花蓮は去年から不登校であったはずだ。それなのに、ここにいるということは……
「美南、学校にまた来れるようになったんだ」
「いや、違う。授業には出てない。この集まりにだけ来てる」
「……愛好会登校?」
保健室登校ならぬ、愛好会登校か。今まで言ったことも聞いたこともない単語だ。
「何―?二人は顔見知りなの?」
親しげに話す僕らに疑問を持ったようで、文月さんがそう尋ねてきた。
「昔からのね。最近は顔合わせてなかったけど」
「おおー、じゃあ丁度いいじゃん!ここでまた仲良くしなよ!」
まるで昔は仲が良かったかのように聞こえてしまうけど、実際はあまり仲は良くなかった。いや、悪かったわけでもないけど、良いわけでもないという絶妙な関係性なのだ。
「それで、あそこの先輩たちが────」
「中村玲奈でーす!よろしくね!」
「お前、後輩の前でそのキャラ装うのいい加減やめろよ」
「黙れ。発言するのはウチの許可を得てからにしろ」
この人は最初のキャラを演じる必要があったのかな?すぐに化けの皮が剥がれたけど。
冷たい言葉を浴びせられたのにも関わらず、全く気にした様子もなく男の人は僕の方を見た。
「俺は船山奏志だ。受験勉強のせいで後少ししかここにいれないがよろしくな」
「ふっ。そんな先輩風吹かせた挨拶も大概でしょ。何格好つけてんの」
中村さんの罵倒は、船山さんにとっては機に止めるものでなかったようで、読んでいた本に再び目を落とした。
「あの二人は前に付き合っていたんだけど、この間別れちゃったんだ。そこからこんな感じで仲悪いの」
文月さんは僕の耳の近くでそう囁いて教えてくれた。
「だったらここを抜ければいいんじゃないの?」
「抜けられないほどにいいとこなんだよ、ここは」
先輩たちには、元恋人と顔を合わせるよりもここに在籍し続ける方が大事なのか……。わからない。
「それじゃあ、葉守くんも挨拶して!」
催促を受けて、僕は慣れない自己紹介をした。隣で「翔一なんだ……」とつぶやき声が聞こえたけど、聞こえなかったことにした。
「それで、ここは何の愛好会なの?」
それすらも知らずに自己紹介をし合ったという事実は、着実に外堀を埋めていく行為のように感じられて、文月さんの策士ぶりを痛感した。
「ここは、心霊スポット探検愛好会!略して、『心スポ愛好会』!」
「心霊スポット……」
話に聞いたことはあるけれども、行ったことは当然ない。そういうのは友達と行くものであろうから、僕には全く縁のないものであったのだ。
「そんな愛好会この一年で全く聞かなかったけど?」
「それはまあ、非公式だから、ここ。生徒会に認められてないの。だから、集まる場所もバレないように転々としてるよ」
「なんか、犯罪者みたい」
無意識に思ったことが口に出てしまった。案の定、文月さんからはジト目を送られたが、割とその通りだったせいか怒られることはなかった。
「『心スポ愛好会』はその名の通り、県内県外のあらゆる心霊スポットを巡るよ!ちなみに今までは二件見てきたよ!」
「それは夏だけの活動ってこと?」
「何で夏?」
「いや、心霊系のやつって夏の特有のものだと思って」
「葉守くんは、夏にしか幽霊が出ないと思ってるの?」
「そんなことはないけど……」
変な人を見るような目で見られていることに窮屈さを感じる。
別に僕は夏にしか幽霊が出ないから、夏に肝試しをすると思っているわけではないんだけど、てかそんなふうに思っている人なんてほとんどいないと思う。
「ともかく、葉守くんは加入するってことでいいよね!?」
その勢いに思わず僕はのけぞる。
「何でそんなに入って欲しいの?」
「あと一人で部活として認められる最低人数になるの!」
なるほど。一応、部として認められようとはしているんだ。
「でもさ、人数が揃ったところで心霊スポットを巡る活動を部として認めてくれるの?」
「…………」
黙っちゃった。多分、ここにいる全員がどこかで無理だと自覚しているのだろう。
「じ、実際にやってみないとわからないじゃん!?駄目だったら今まで通りに犯罪者みたく活動するしかない」
「犯罪者のたとえを受け入れていいんだ……」
「それで、入ってくれる?」
文月さんは期待の眼差しを隠すことなく僕に浴びせてくる。それは前からだけでなく、背中越しにも感じる。先輩も美南も同様の視線を僕に向けているのだろう。
僕は観念して言った。
「は、はい。入ります……」
僕にはここで断る勇気など持ち合わせていない。そんなものを持っていたら、とっくのとうに友達ができているはずなのだから。
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