僕に平穏な日々はもうない!

@-haihun-

第1話 発見!告白現場!そして、逃走!

 僕、葉守翔一は昨日で風見坂高校の二年生になった。

 先月まで中学生だったまだ制服を着慣れていない新入生を見て、自身の去年の姿を思い出しながら登校する。

僕もスタートダッシュを頑張っていればなぁ……

 入学式で仲良くなったのか、同じ中学校だったのかはわからないが目の前で楽しそうに話しながら歩いている二人組。

 また違う世界線では今頃、僕の隣にも誰か友達と呼べる存在がいたのかも知れない。だけど、残念なことにこの世界線ではそれは叶わなかった。

 もう一人であることに慣れてしまった体を動かして、一年生の教室がある階はいかないように注意して、教室に到着する。

 話し声や笑い声が入り混じるのを耳で聞きながら、自分の席に着いて去年使った数学の教科書を取り出した。

 別に僕は真面目ではない。それどころか勉強は苦手な方だ。そんな僕がなぜ教科書を見ているのか。

 勉強に集中したいから一人でいるというアピールを周りにするため?ノンノン。そんな虚しいことをしたら、自分の首を絞めるだけだ。

 正解は今日一日、テストがあるからだ。英国数の去年やった内容のテストだ。

 別に成績に影響するわけではないので本気でやる必要はないが、他の人もそう思い、勉強をしないために滅多に加わることができない上位勢に入れるかもという淡い期待を抱いているのだ。

 親も安心してくれるしね。

 しばらくして新担任で国語担当の工藤先生がやってきて、朝のホームルームが終わった。

 そこから十分の休憩時間を挟んで国語が始まった。

 普段から本を嗜んではいるが、国語ができるというわけではない。僕は基本的に有名作しか読まないし、そういうのは僕みたいに登場人物の行動心理を深く考えなくても楽しめるからこそ、有名作なのだ。

 国語が終わったら次に数学だった。横の人の書くときの音とページを捲るときの音がうるさくて、っていうのは言い訳になっちゃうけど、勉強の成果は出せなかった。

 一人で過ごすお昼休憩を挟んで、次に英語だ。リスニングがあったけど、解かせる気があるのかと疑ってしまうくらいに音声がガビガビだった。

 テストが終わり、まだ掃除が残されているがそれは一時間かけてやるなかなかに大きいものなので、先に帰りのホームルームを済ませた。

 僕の班は教室であったため、普段とやることはほとんど同じだった。僕も窓掃除をしてみたかった。

 掃除が一通り終わって、各々が部活へ行く準備や帰宅をしている人がいる中で、ゴミ捨てをしていないということで僕らの班は再度集められてジャンケンに負けた人が行くこととなった。

 こういうときに無類の弱さを発揮する僕の前に、みんななす術はなかった。

 校舎の外れたところにあるゴミ捨て場へと向かう。僕のクラスがゴミ捨てに気づくのが遅かったせいで周りに人は見当たらない。

 そう思っていたけれども、遠くから小さく声が聞こえた。近づいていくと、その声には聞き覚えがあった。

 その声の主は去年、そして今年も同じクラスになった文月菖芽ふみづきあやめさんであった。そして、そのさらに少し奥には見たことのない、かっこいい男生徒がいた。

 僕は瞬時にこれから何が行われるのかを察知して、物陰に隠れた。別に盗み聞きをするつもりはない。けど、最低限、どっちがどっちを誘ったのだけかは知りたかった。

「部活あるのにきてくれてありがとうね」

 そうモジモジしながら喋ったのは文月さんであった。

「時間ないだろうから、単刀直入に言います。私と付き合ってくだ────────」

「ごめん!」

 文月さんは食い気味に断られた。僕はその光景を見て、思わずたじろいだ。

 なぜならば文月さんはかなり顔の整った、運動もできて勉強もそこそこできる人だからだ。性格も明るくて、友達も多い人気者のはずなのに………。

「な、何でか訊いてもいい………?」

 泣き崩れそうな声でそう問うと、男生徒は申し訳なさそうな顔で

「俺、他校に彼女いるんだよ。だから、ごめん」

 と悲しい現実を突きつけた。

「そっか。そうだよね。葵くんモテるもんね……!ごめんね、そんなリサーチもしないで告白しちゃって!」

 無理に取り繕って文月さんは精一杯に明るい声を出した。

「じゃあさ、振られた女からの最後のお願いなんだけど、このことは誰にも言わないでほしいの。それで関係も今まで通りで……。お願いできる……?」

 僕からはどんな表情をしているかは見えない。だけど、男の方の表情から何となく想像はつく。

「わかった。絶対に誰にも話さない。約束する。じゃあ、俺は部活あるからそろそろ行くな。ありがとうな、気持ちは嬉しかったぜ」

 こちらに向かってきそうな雰囲気を感じ取って、少し離れたところで再度身を隠した。

葵くん?が通り過ぎて行って、そこで僕は文月さんが通り過ぎるのも待てばよかったのだけど、こんな状況にはこれから先一生出くわすことはないであろうという考えから、文月さんの様子を再び覗いた。それが間違いだった。

 覗いた瞬間に目が合ってしまった。そこで動揺しなければ、ただゴミを捨てにきただけで告白現場を見てはないと、そう思われることができたら事なきを得たのだけど、僕にはそれができなかった。

 振られたことを見られたと悟った文月さんはまるで、腹ペコの時にようやく獲物を見つけることができた猛獣のように目を光らせた。

殺される……!

 そう直感したのと同時に、彼女は僕を捕まえに走り出してきた。

 やばいやばいやばいやばい!!

 僕はゴミをその場に置いて、全力でその場から逃げる。人間、本当に危険な時は限界を超えられるのだ。ここまで風を感じながら走ったことはない。

 だけど、文月さんは運動神経が良いためいずれ追いつかれる。だから、僕は咄嗟に階段脇の楽器などが置かれたスペースに身を隠した。

 殺せ殺せ、気配殺すんだ……!

 顔を上げたら隠れきれないため、下を向いて嵐が去るのを待つ。心臓は走ったからという理由だけでは足りないほどに、速くなっている。

 周りの喧騒も足音すら聞こえないため、ゆっくりと顔を上げた。

 いた。そう、いた。

「見たよね?」

「はい?」

「見たよね?さっきの」

「ちょっと何のことかわからないなー?」

「だったら何で逃げたの?」

「追われたら逃げるのは生物の本能なんだよ」

 何とか言い逃れできないかと、抵抗を試みる。もしかしたら、と希望を見出さずにはいられないのだ。

「だったら、本当のことを吐かせるしかないね」

 そんな怖いことを言って、彼女は僕にゆっくりと近づいてきたために、僕は腰を抜かしながらも後退りする。だけど、それも遂にはできなくなり視界が文月さんで暗くなった。

 僕は振り上げられた拳を瞼を閉じることによって遮った。その瞬間に、脇腹をがっしりと掴まれてこちょこちょされた。

「あははははは!!!ちょっと、やめて!やめ……あはははは!!!」

「正直に話したらやめてあげる」

「わかった!わかったからやめて!!」

 そう言うと、脇腹から両手が離された。久しぶりにこんなに大声を出したために喉が痛くなった。だが、それ以上に異性に体を触られたことに体が熱くなって発汗した。

 心と体を落ち着けて、改めて文月さんを見る。すると、僕が冷静になったのを確認した後に、彼女が訊いてきた。

「それで、見ましたか!?見てませんか!?」

「み、見ました……」

 真実を告げたその時、文月さんはその場で崩れ落ちた。

 あれ?この人って結構愉快な人なのかな?

「もー!何でー!何で見られちゃったかなー!」 

 僕たちがここにいることを周囲に気が付かれてしまう可能性なんて微塵も考えていないのか、大きな声で自身の失態を憂いた。僕は何もできないし、何も言えなかった。

「ちなみにどこから見てた?」

「えっと、来てくれたことにお礼を言っていたところからかな?」

「ほぼ最初からじゃん!」

 これで本当に見られたことが確定したために、文月さんはさらに肩を落とした。

「ねえ、何で私振られたと思う!?」

「え、いやぁー……」

 めんどくさい……。

「彼に既に彼女がいたからじゃないの?」

「それでも、『俺は菖芽を選ぶよ』って言って私のとこ来てくれても良くない!?」

「えぇ…….いやー、良くないんじゃないかなー?そんな人と付き合いたい?」

「んんーー、嫌だね」

「じゃあ、このやりとりいらないよね」

 バレない程度に小さく、音もなくため息をつく。もう帰りたい……。

「お前ら、そこで何している?」

 まるで助け舟を出すかのように新担任の工藤先生が現れた。これでやっと解放されると安堵したのも束の間、こんなよくわからない場所で、こんなよくわからないことをしているのをどう説明したら良いのだろうか。

 しかし、こんなときに役に立つのが頭の良い文月さんだ。

「えーと、あれですよ、あれ。そう!野守くんがコンタクトレンズ落としちゃったみたいで!」

 それは無理でしょ!何でこんなところでコンタクトを落とすの!?それに僕は野守じゃなくて、葉守なんだけど……。去年も同じクラスだったのになぁ……。

「そうか!なら、俺も少しだけ手伝うぞ、野守!」

 騙されちゃったよ、この先生。てか、先生も僕の苗字覚えていないの……。一応、去年の国語は先生が担当だったんだけどなぁ…………。

 僕は文月さんとは別のベクトルで悲しくなったが、それを顔には出さずに既にコンタクトレンズを探し始めている二人に加わった。

 あるはずのないものを三人で探しているという図は、客観的に見たらかなり滑稽に見えるであろう。

 そんな時間は先生が諦めて、この場を去ったことによって終わりを迎えた。

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