第8話 Go Alone ~一人で行け~

 テーブルの上には、二つの荷が置かれていた。


 アルは片方をロゼの前へ押し出した。


「一人で行け」


 ロゼは荷を見下ろす。

 触れず、外側だけを確かめる。


「……これ、何だ」


「運びだ」


 それ以上は言わない。


「行き先は」


 アルは地図を開き、該当する地点を一度だけ示す。


「南。三つ目の街区」


「渡すだけ?」


「そうだ」


 ロゼは荷を見直す。

 軽い。


「中身は?」


「見るな」


 アルは別の紙を折り、別方向を指で押さえた。

 残った荷を自分の側へ引く。


「俺はこっちだ」


 ロゼはアルの手元を見る。

 準備は終わっている。


「……ソロってことか」


 返事はない。


「分かった」


 荷を肩に掛け、装備を確認する。


 ルガーP08。

 癖は強いが、撃てば真っ直ぐ飛ぶ。

 引き金の感触は覚えている。


 アルが先に扉へ向かう。


「くたばんじゃねぇぞ」


 アルは振り返らない。


「お前とは違う」



 南第三街区、古びた倉庫の前に車を停める。

 風が強く、遠くの機械音と、近くの砂の擦れる音が混じる。


 ロゼは数歩進んでから足音が一つしかないことに気づいた。

 無意識に歩調を落としかけ、すぐに戻す。


 止まる理由はない。


 道は荒れているが、迷うほどではなかった。

 次の角まで五十。


 距離を数えている間は、余計なことを考えずに済む。


 荷の重さは変わらない。

 だが、肩に掛かる感触はいつもと違っていた。


 ロゼは歩幅を一定に保つ。

 早くも、遅くもしない。


 区画の最端に、倉庫があった。

 外壁は古く、明かりは最小限。


 扉を開けた瞬間、空気が変わる。


 中に複数の気配。


 男たちが、一斉に距離を詰めた。

 ロゼを中心に、円を描く。


 ロゼは無意識にジャケットの内側、ルガーP08の位置を確かめる。


 十人ほど。

 銃口が、すべてロゼを狙っている。


 そのうちの一人が前に出た。

 すらりとした長身。

 眼鏡の奥の視線が、ロゼに向けられた。


「なんだ。ガキか」


 ロゼは表情を変えない。


「頼まれてたモンだ」


 短く言って、荷を差し出す。


 男が手を伸ばした瞬間、ロゼは荷を引いた。


「金は?」


 男が一瞬だけ眉を動かす。

 次の瞬間、背後に顎をしゃくった。


 別の男が前に出て、アタッシュケースを置く。

 ロックを外し、中身をロゼに向ける。


 ロゼは荷を床に置き、同時にアタッシュケースを引き寄せた。

 交換は一瞬で終わる。


「ガキのくせに、しっかりしてやがる。気に入ったぜ」


 男が声高に笑う。


「ガキ、ガキうっせぇ」


 ロゼは睨み返す。


 空気が一瞬だけ張る。

 だが、誰も動かない。


 男は肩をすくめた。


「悪ぃ悪ぃ。……あんたのボスにもよろしくな」


 ロゼは答えない。

 アタッシュケースを持ち、向きを変える。


 背中に視線を感じながら、倉庫を出た。

 足取りは変えない。


 外に出ると、夜の音が戻ってきた。


 ロゼは歩き出す。

 月明かりで、赤い髪が夜の中に浮いていた。



(つづく)

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