第7話 The Assistant ~助手~

 ロゼは、テーブルの上で銃を分解していた。

 部品を順に外し、並べる。

 小さな金属音が、室内に一定の間隔で落ちる。


 布で一つずつ汚れを拭き取る。

 砂と油が混じった汚れが指先に残るが、気にしない。

 布を替え、同じ動作を繰り返す。

 分解は慣れた手つきで、迷いはない。


 扉が開く音がして、アルが戻ってきた。

 コートは脱がず、そのまま壁にもたれる。


「仕事だ」


 ロゼは視線を上げない。

 シリンダーを外し、内部を覗き込む。


「で?」


「今夜」


 ロゼは小さく息を吐く。

 確認の意味で、もう一度内部を見る。


「で、いくらだ」


 アルはすぐには答えない。

 ポケットから紙を取り出し、テーブルの端に置いた。


 ロゼは視線を落とす。

 数字を追い、指が止まる。


「……三万ドータ?」


 声が低くなる。


「水が一リットル二千だぞ」


 指先で紙を軽く叩く。


「舐めてんのか。これ」


 アルは否定しない。


「条件はそれだけだ」


 ロゼは小さく息を吐き、紙から視線を外した。


「金にならねぇ仕事ばっかじゃねぇか」


 愚痴ではあるが、声に苛立ちはない。


 アルは返さない。

 代わりにポケットから別の紙を取り出し、テーブルに置く。


 今回の依頼は単純だった。

 指定された人間を殺し、証拠を残さずに消える。

 それ以上は求められていない。


 ロゼは紙を横目で見てから、部品を組み直す。

 スプリングを戻し、回転を確かめる。引っかかりはない。


「組織絡み?」


「違う」


「流しか」


 アルは否定しない。

 それ以上の説明もない。


「また面倒なやつ?」


「いつも通りだ」


 ロゼは鼻で短く息を出し、銃をケースに収めた。

 留め具を確かめ、閉じる。


「ホント、割に合わねぇ」


 アルは理由を言わない。

 ロゼはそれ以上聞かなかった。

 


 目的地に着いた時は、深夜を回っていた。

 古いホテルの裏手は暗く、表の明かりは届かない。


 ロゼが先に裏口を確認する。

 扉の位置、周囲の死角、通りとの距離を一度で把握する。


 アルは後から続いた。


 三階の廊下は空いている。

 足音を立てずに進み、ロゼが非常階段の位置を確かめる。

 戻る動線は確保できる。


 扉の前で足を止める。

 室内から声が聞こえた。


 二人分。

 一人の仕事ではなくなる。


 ロゼが小さく舌打ちをする。


「チッ……女連れか。面倒くせぇ」


 状況が変わったことを伝えるための言葉。


 アルは返さない。

 ロゼは一歩下がり、廊下の死角を取る。


 アルが扉を蹴破った。

 鈍い音が廊下に跳ねる。


 発砲音は一度だけ。

 ドン、と低い破裂音が室内に残る。


 ロゼは入らない。

 廊下から様子を見る。


 標的の男は倒れている。

 動きはない。


 それで十分だった。


「完了だ」


 短い声でそう言って、アルは室内から引く。

 ロゼはすぐに向きを変える。


 非常階段を下り、裏口へ向かう。

 足取りは速いが、走らない。


 

 車は近くに停めてあった。

 ロゼが車を出した。

 隣で、アルがタバコに火をつける。

 赤い点が一瞬だけ光った。


 しばらくして、アルが言った。


「段取り良くなったな」


 ロゼは前を見たまま返す。


「最初からだっての」


 ハンドルを握る指に、わずかに力が入る。

 一度だけ、息を整える。


 車はそのまま夜道を駆け抜けた。


 

(つづく)

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