第3話

 僕は手元の小銭が心もとなくなり、仕方なく宿を出てギルドに向かった。

 宿の女将さんは久しぶりに外に出る僕を見て、少し安心していたようだった。



「これ……お願いします……」



 僕はクエスト用紙に必要事項を記載し、受付のミーナさんに手渡した。



「久しぶりね。どうしたの? いや、こんな詮索しちゃダメね」



 そう言うとミーナさんは記載事項を確認した。

 僕は個人番号がわかるように、ミーナさんの顔の正面にステータスカードを掲げた。



「そんないい加減なことしないで、ちゃんと見せてください」



 僕はごまかすのは無理だと、首から紐を外してカードを手渡した。

 ミーナさんはそれをいつものように受け取り、表面を確認した。

 その瞬間、一瞬だけミーナさんのまぶたが見開いた。


 ミーナさんは手招きし、手で口元を隠しながら僕の耳元で静かに囁いた。



「レベル、やっと上がったのね……受付の身で言うのも何だけど、嬉しいわ!」

「……ありがとうございます……」



 僕のどこか気落ちしたような返事をきいて、ミーナさんはなんて返そうか迷っているみたいだった。

 一番気になることがあるので、僕から質問した。



「あ、あの、それ以外は気になりませんか? ……」

「ええ、まあ……『★』が減ってますね……なんなんでしょうね、これ」

「それだけですか? ……」

「はい……あまり嬉しそうじゃないですね……安心してください。カノンさんが公言しない限り、黙っておきますので……」

「ありがとうございます……」



 僕はそう言って、ダンジョンの方に足を向けた。

「シークレット事項」はミーナさんは見えなかったようだ。



 *****



「ちょっとミーナ、後でギルド室に来てくれ」



 私は受付の仕事が一段落すると、後は他の人に任せてギルド室に向かった。

 内容はだいたいわかっている。

 あの少年の特殊性だ。



「まあそこに座ってくれ」



 ギルド長は資料に目を通しながら私を促した。



「ここ最近、急激にレベルが上がるパーティーが続出した件についてだ」

「……はい」

「それぞれのパーティーに聞き取り調査をしたんだが、ある二つの共通点が見つかってな」

「……」

「一つ目は、必ず初心者パーティであること。二つ目は、みんな、共通の荷物持ちを解雇していること」

「カノン君のことですね……」



 ギルド長は書類から目を離し、私にその鋭い視線を投げかけた。



「そうだ、君にはその調査をしてほしい……元高レベル冒険者・孤高のミネルヴァなら、簡単な仕事のはずだ。お願いできるか?」

「……わかりました」



 そうして、カノン君を尾行調査する日々が始まった。

 ずっとレベルは上がらない、でも周りの成長速度は明らかに速い。

 なぜ彼はそうなのか、ずっと気になっていたことだ。


 騙すような行為が胸を痛めるが、私の好奇心の方が、最終的には勝ってしまっていた。



 *****



 僕は一人で簡単なクエストをこなす日々が続いていた。


 ある日ダンジョン入口の周辺で、狩りをした獲物を重そうに運ぶ二人組を見つけた。

 教会の神託を受けたばかりだろうか。そうしたら僕より少し年下になるのかな?



「その荷物持ってあげようか? 僕いつも荷物持ちしてるから……」

「……」

「ああ、大丈夫だよ? ほらステータスカードも持ってるよ!」



 ステータスカードは信用の証でもあった。盗みでも働こうものならすぐに没収され、国外に追放されてしまうような効力を持っている。

 それを見て二人組は安心したようだった。



「有り難いけど、何もお礼できないよ? こっちもカツカツなんだ」

「お礼なんていいよ、でもパーティー組んでみない? 僕、荷物持ちだったら自信があるよ!」

「えー、でもひとり足らないよ?」

「まあ、とりあえず帰ろっか。その荷物渡してくれる?」



 僕は二人の獲物を「空間収納」に収めた。二人は初めて見るのか興味津々で自分たちの獲物が収まっていくのをじっと見つめていた。



「たしかにこれなら、薬とか簡単に持ち運べるし、クエスト受けるの便利だな!」

「そうでしょ?」



 そこに獲物を引きずって運ぶ、マスクで顔を隠した人物が現れた。

 一人で倒したにしては結構大きめな獲物だ。



 二人はまた警戒し、少し身構えていた。

 僕はそんなに嫌な感じがしなかったので、その人物の出方を見守っていた。

 ヤバそうなやつには今まで何回かあったことがある。声や姿はバラバラでも、何かしら共通したひりつく雰囲気を身にまとっていた。

 眼の前の人物は違う気がした。

 見た目こそ怪しいが、どこかで見たような毅然とした歩みには、柔らかな空気がまとい付いているような――そんな錯覚さえ覚えた。



「ごめん、驚かしちゃったわね!」



 そういってステータスカードを襟から見せてくれた。

 二人は少し安心したようだった。



「たまたま『空間収納』を使うのを見てて……私も良かったら運んでほしいなと思って」



 その人物は女性だった。

 僕より大きなりんご1個分ぐらいは背が高そうで、身のこなしは軽そうだ。

 腰にさした剣がその職業をうかがわせていた。

 ただ声は少しノイズが走っていた。たぶんマスクに魔法がかかっていて、地声を補助しているようだった。声になにか問題があるのかもしれない。そんな感じがした。




「できたら、そのパーティにも入れてほしいな! 私は『ミネル』よ!」

「ほらこれで四人そろったよ! どうする?」



 二人はしばらく考えた後、よろしくと握手の手を差し出してくれた。






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