第43話
谷の奥、霧が立ちこめる険しい岩場を、少年は慎重に進んでいた。
崖から落ち、命からがら這い上がった後の傷はまだ癒えぬまま。
手足に小さな擦り傷を作りながらも、鋭い瞳は遠くを見据える。
そこで初めて、彼はそれを目にした――魔王城の姿だった。
禍々しくも、どこか不思議な威厳を放つ城。
「……ここ……本当に、人が住めるのか?」
警戒心を抱きつつも、体の奥底に生まれる興味が彼を少しずつ引き寄せた。
谷の下の小さな木立に隠れながら、彼はそっと城を観察する。
城の中からは、温かく光る窓の明かり。
そして、ふと小さな影が目に入った。
薄茶色の髪に、ピンクがかった赤い瞳――小柄ながらも光を帯びた少女が、城の中庭を歩いている。
少年の胸が一瞬、ぎゅっと締め付けられる。
「……誰だ……?」
警戒心が強い彼は、その瞬間に心を引き締めた。
しかし、同時に、目を離せない何かを感じていた。
少女――リリアは13歳前後になり、薄茶色の髪を風に揺らせながら、骨たちと軽やかに笑っている。
「お嬢様、今日の魔法は……」
「うん、みんな、ありがとう!」
無邪気で天真爛漫な声が、谷を通して少年の耳に届く。
その瞬間、少年の心は、まだ知らぬ感情で震えた。
それが後に、愛情や恋心に変わることを、まだ誰も知らない。
少年はしばらく様子を窺い、警戒心を解かずに見守る。
「……でも、危険はなさそうだ」
谷の陰からそっと見守りながら、彼は決意する。
ここで、何か大事なことが始まる――そんな予感を、胸に抱きながら。
魔王城の中では、リリアと骨たちの日常が静かに続いている。
無邪気な笑顔、軽い魔法の練習、冗談を交わす骨たち――
外の世界では厳しい現実に耐え続けてきた少年には、それが眩しく映った。
「……すごい……」
初めて見る、異世界の光景。
そして、その光景の中心にいる少女――リリア。
少年の心に、小さな火が灯った瞬間だった。
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