第26話

 勇者が城門から撤退していくと、中庭には静けさが戻った。


 リリアは、紙の弟を宙に浮かべたまま、首をかしげる。

「ふーん、なんで勇者さんは帰っちゃったのかなー?」


 まだ8歳のリリアは、昨日と変わらず天真爛漫な笑顔で、何も知らずに遊んでいた。


 骨たちはカタカタと声を上げながら、紙や小石を回収する。

「お嬢様……あの外界の者はもう大丈夫ですか?」

「でも楽しそう……!」


 魔王は遠くから眉間に皺を寄せ、困り顔を浮かべる。

「……規格外の力が出たな」


 無邪気な笑顔と、無自覚チートの力を目の前に、魔王も少し困惑している。

 リリアは紙の弟をくるくる回し、空中でぴょんと跳ねさせる。


「わーい、もっと飛ばそーっと!」

 骨たちは慌ててキャッチし、カタカタ笑いながらも結界の維持に全力を注ぐ。


「お嬢様……城中がまた遊園地状態です!」

「でも楽しそう……!」


 魔王はため息をつきつつ、微かに指先で光の結界を整える。


 中庭の隅では、骨たちがリリアの髪を整え、軽くアレンジしていた。

「お嬢様、大きくなったなぁ……」

「でも遊び方は相変わらずですね」


 リリアはニコニコと笑い、紙をくるくる回しながら応える。

「ふふーん、まだ遊びたいもん!」


 骨たちはまたカタカタと笑い、今日も平和な混乱を楽しんでいた。


 魔王は中庭の端に立ち、リリアを見つめる。

「……無邪気すぎる……油断ならん」


 しかし、眉間の皺は少しゆるみ、微かに困りながらも楽しげな表情が浮かぶ。


 その目には、勇者や王国の動きを警戒する赤黒い光も混ざっていた。



 遠くの王国では、勇者の撤退報告が届く。


「……やはり、ただの子どもではなかったか」


 王や家臣たちは顔を見合わせ、再び焦り始める。



 魔王城の日常はまだ平和でほのぼのとしているが、外界との衝突の伏線は、確かに静かに張られていた。


 リリアは紙の弟を空中でくるくる回しながら、ほほ笑む。

「わーい、今日も楽しいね!」


 骨たちはカタカタと笑い、魔王は困り眉を浮かべつつ、微かに微笑む。


 こうして、勇者の撤退後も、魔王城の平和で賑やかな日常は続くのだった。

 しかし、世界のざわめきは、まだ静かに城の外で広がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る