第19話

 城の中、朝の光が大広間の窓から差し込む。


 魔王は静かに書類を整理していたが、ふと、遠く離れた王国のことを思い出す。


 そこで生まれた弟――まだリリアには知られていない存在――が、きちんと育っていることを確認していた。


「……あの子も、元気にしているだろうか」

 魔王は、低く呟く。


 骨たちはカタカタと笑いながらも、気づかぬふりで周囲の掃除を続ける。


「……お父様、遠くの子のことを考えるのは珍しいです」

「……あれも、未来の伏線かもしれん」


 魔王は眉間に軽く皺を寄せる。

「……いや、余計な心配だ」


 一方、リリアは大広間の隅で小さな机に向かい、文字の練習をしていた。


「ふーん、弟ってどんな子か想像してみよっと!」

 そう呟くと、リリアの瞳が輝き、手元の紙に勝手に人物を描き始める。


「茶色い髪で、元気そう……」

「でも、わたしよりしっかりしてるのかな?」

「いっぱい笑わせてあげたいなー!」


 骨たちは、カタカタ笑いながらも見守る。

「……将来が恐ろしい想像力です」

「でも楽しそうです……」


 魔王は、背後で赤黒い瞳を細め、苦笑い。

「……油断すると、城が彼女の想像で支配されそうだ」


 リリアは、紙の上の弟を描きながら、次々に設定を追加する。


「正義感は強くて、失敗は少ない……でも、わたしに負けないくらい元気!」

「わー、これで遊んだら絶対楽しいよね!」


 骨たちは、紙を覗き込みながら、ひそひそ声でつぶやく。

「お嬢様……それ、完全に未来予知です」

「いや、まだ会ってもいないのに」

「無自覚チートの兆候ですね」


 魔王は、遠くの王国の弟のことを思いながらも、リリアの様子に視線を戻す。

「……この子の無邪気さと才能が合わさると、将来が想像できん」


 手元の書類に軽く目をやり、ため息をつく。


 リリアは満足そうに紙を閉じると、ぱっと顔を上げて笑った。

「よーし、じゃあ次は、魔法で紙飛ばし遊び!」


「……え?」

 骨たちは再び大慌てで準備をする。


「お嬢様、またですか!」

「でも楽しそう……!」

「いや、危険です!」


 魔王は、赤黒い瞳でリリアを見つめ、眉間に皺を寄せながらも、微妙に口角を上げた。


「……どうやら、今日も平和に混乱しそうだな」


 城の中は、リリアの無邪気さと無自覚チート、骨たちのカタカタ笑い、そして魔王の微妙な困り顔で、今日も静かに賑やかに動き出す。


 遠くの王国で、弟は知らずに平穏に育つ。


 しかし、魔王城で暮らすリリアの毎日は、弟の存在をも巻き込む未来の物語の始まりとなるのだった。

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