第18話
もう随分と前に遡る――
王国では、ある日、華やかな知らせが街に流れた。
王国の有名な剣豪と魔法使いの間に、ついに男の子が生まれたという。
その瞬間、城内は祝宴で賑わった。
しかし、その数年前に生まれた女の子――リリア――の存在は、王家にとって複雑だった。
彼女の魔力量は測定では表示されず、「無才能」と判断されてしまったため、期待されたのは息子だけだったのだ。
両親の思惑は明確だった。
父は、家庭内にはほとんどおらず、外での功績や世間体ばかりを気にしていた。
息子を英雄として世間に誇示したい。
女の子は、まるで眼中にない存在であった。
母は、女の子が生まれたこと自体を恥と思っていた。
自身の美貌を誇示するためには、王と結婚し、お金と贅沢を手に入れることが最優先。
そのため、息子の誕生は待ち望んでいた幸福だった。
女の子――リリアの存在は、家庭内では軽んじられることになる。
そしてついに、弟が生まれる。
生まれた瞬間、城内の雰囲気は一変した。
歓声と祝辞。
王族や家臣たちの拍手。
「これで世間体は完璧だ」と父が微笑む。
母は満足げに微笑み、まるで自分の勝利をかみしめるかのようだった。
弟は生まれながらにして、期待に満ちた子であった。
性格は素直で、正義感が強く、何をやっても失敗が少ない。
目も茶色で母親似、顔立ちは愛らしく、生まれた瞬間から王族としての輝きを宿していた。
王国の人々からも、称賛と愛情を一身に受け、健やかに育つことが約束された存在だった。
一方、リリアはその頃、王国の家庭の中で無言で存在していた。
声も少なく、教育も十分ではなく、周囲の人々にまともに関心も向けられなかった。
測定されても数値は表示されず、期待もされないまま、家庭内でただ静かに日々を過ごす存在であった。
父と母が喜び、弟を取り巻く環境が華やかに変化する中、リリアの存在は徐々に薄れていく。
だが、これも後の運命を考えれば、重要な伏線でしかなかった。
魔力量が規格外であるリリアは、この時点ではまだ自覚もなければ、能力の片鱗すら見せることはなかった。
それでも、心の底に芽生えたのは、純粋な好奇心と無邪気さ。
その天真爛漫な性格は、後に魔王城で全開となり、周囲を巻き込むほどの力と明るさを発揮することになる。
弟の誕生は、王国にとって喜ばしい出来事だった。
しかし、家庭内でのリリアの扱いと、彼女の知られざる能力の存在は、やがて王国に「詰み」をもたらすことになる。
王族に期待され、愛された弟。
王族に無視され、しかし誰よりも力を秘めた娘――この二人の運命は、まだ交わることなく、時間だけが過ぎていった。
そして、この頃のリリアの記憶は、後の魔王城での無邪気な日常へとつながる大切な基礎となる。
彼女の性格、笑顔、そして無自覚の才能――すべては、弟が生まれたこの瞬間の環境の中で育まれたものだった。
城の中で弟が抱かれ、皆に称賛される一方で、リリアは静かに、しかし確実にその力を蓄えていく。
その日、王国は知らなかった。
小さな女の子の存在が、世界を揺るがす力になることを。
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