第14話

「きょうはね!」


 リリアは、朝からやけに元気だった。

「おべんきょうするんだって!」


 その言葉に。

 骨たちが、静かにざわつく

 。

「……勉強、ですか」

「教えた経験、ありませんね」

「骨ですが」

 魔王は、腕を組んで頷いた。


「……最低限の知識は必要だ」

「はーい!」

 リリアは、元気よく返事をする。


 意味は、たぶん分かっていない。


 用意されたのは、簡単な文字の本。

 分厚い机。


 そして、即席の教師役の骨。

「では……これは『あ』です」

 骨が、板を指す。


 リリアは、じっと見つめて、

 首をかしげた。


「……まる?」

「違います」

「文字です」

「ふーん」


 興味なさそうな返事。

 魔王は、少し眉をひそめた。


 集中できていないように見える。

 だが。


「じゃあ、これは?」

 骨が、次の文字を示す。


 リリアは、ぱっと顔を上げた。


「さっきのと、ちがうね」

「……え?」

「違い、分かります?」

 骨が、思わず聞き返す。


「うん」

 リリアは、指で空中になぞる。


「あ、こっちは、こう」

「こっちは、ちょっと、くいってしてる」

 骨たちが、固まる。


「……形、完全に把握してます」

「初見ですよね?」

「……怖いです」


 文字を、三つ。

 四つ。

 五つ。

 説明は、ほとんど要らなかった。


「じゃあ、ならべるね!」

 リリアは、楽しそうに言う。


「……え?」

「まだ、読めるとは――」


「あ・い・う・え・お!」

 元気よく、言い切った。


 骨たち、沈黙。

 魔王「……」

 魔王は、軽く咳払いをした。

「……理解が早いな」


「えへへ」

 褒められたと分かると、笑う。


 次は、魔法の基礎。

 ――本来なら、五歳にはまだ早い内容。


「魔力は、体の中を流れています」

「意識して、動かすことで――」

「じゃあ、こう?」


 リリアは、軽く手を振った。

 ぱちっ。


 小さな光が、指先に灯る。

「!?」

「無詠唱!?」

「制御、できてます!?」


 リリアは、不思議そうに眨いた。

「……あれ? あそびじゃないの?」


 魔王は、はっきりと驚いていた。

 だが、表情には出さない。


「……遊びではない」

 そう言いながら。


「……だが、問題はない」

 訂正する。


 骨たちは、崩れ落ちる。

「教師の立場が……」

「完全敗北です……」

「骨が折れました……」


 リリアは、きょとんとして。

 でも、すぐに笑った。


「じゃあさ!」

「つぎは、なにするの?」


 魔王は、少し考えてから言う。

「……休憩だ」


「やった!」

 リリアは、椅子から飛び降りる。


 魔王は、無意識に手を伸ばして支えた。

 転ばないように。


 骨たちは、その様子を見て

 にやにやしていた。


 魔王城の勉強は。

 勉強というより――


 才能の確認作業になりつつあった。

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